原子核と放射線
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1導入
この講義では、原子核の変化を、放射線の名前ではなく、質量数、原子番号、エネルギーの保存で追う方法を説明する。
原子核の反応では、化学反応よりもはるかに大きなエネルギーが出入りする。その理由は、核子が結合した状態と、ばらばらの状態で質量が完全には一致しないからである。この差を質量欠損といい、E=\Delta mc^2 によって結合エネルギーへ対応する。
2用語と定義
核種は、陽子数と中性子数で区別される原子核の種類である。
核種を
{}^{A}_{Z}X
と書く。A は質量数、Z は原子番号である。A は陽子と中性子の合計、Z は陽子数である。
質量欠損とは、原子核をばらばらの核子にしたときの質量の和と、実際の原子核の質量の差である。
\Delta m=Zm_p+(A-Z)m_n-M_{\text{nuc}}
結合エネルギー E_B は
\boxed{E_B=\Delta mc^2}
で定義される。
3方針
核反応では、まず式の左辺と右辺で A と Z を比べる。質量数と電荷が保存するため、未知の粒子や核種を決められる。
半減期では、「一定時間で同じ個数だけ減る」のではなく、「一定時間で同じ割合だけ減る」と見る。この違いが、一次関数ではなく指数関数になる理由である。
4保存則 1:核反応での A と Z の保存
核反応では、反応前と反応後で質量数 A の和と原子番号 Z の和が等しい。
4.1証明
質量数 A は陽子と中性子の合計である。核反応では、核子が別の核へ組み替わったり、放射線として出たりするが、反応式に現れる核子の総数は保存する。したがって A の和は等しい。
また、Z は陽子数であり、電荷の単位で見た正の電荷に対応する。電荷は保存するため、電子や陽電子も含めて反応式を書けば、反応前後で Z の和も等しい。
5整理 2:代表的な放射性崩壊
放射性崩壊では、次の変化が起こる。
\boxed{\alpha\text{崩壊}:\quad A\to A-4,\quad Z\to Z-2}
\boxed{\beta^-\text{崩壊}:\quad A\to A,\quad Z\to Z+1}
\boxed{\gamma\text{崩壊}:\quad A\to A,\quad Z\to Z}
5.1証明
\alpha 線はヘリウム原子核であり、
{}^{4}_{2}\mathrm{He}
として表される。したがって
{}^{A}_{Z}X\to {}^{A-4}_{Z-2}Y+{}^{4}_{2}\mathrm{He}
と書けば、右辺の質量数の和は (A-4)+4=A、原子番号の和は (Z-2)+2=Z である。よって親核から見ると A は 4 減り、Z は 2 減る。
\beta^- 崩壊では、原子核の中で中性子が陽子へ変わり、電子が放出される。中性子と陽子はいずれも核子なので A は変わらない。陽子数は 1 増えるため、原子核の Z は 1 増える。放出された電子の電荷を含めると、全体の電荷は保存する。
\gamma 線は高いエネルギーの電磁波であり、質量数も電荷も持たない。したがって A と Z は変わらない。
6関係式 3:質量欠損と結合エネルギー
原子核の質量欠損を \Delta m とすると、その結合エネルギーは
\boxed{E_B=\Delta mc^2}
である。
6.1証明
原子核を陽子と中性子にばらした状態の質量を
M_{\text{sep}}=Zm_p+(A-Z)m_n
とする。実際の原子核の質量を M_{\text{nuc}} とすると、質量欠損は
\Delta m=M_{\text{sep}}-M_{\text{nuc}}
である。
質量とエネルギーの対応 E=mc^2 を用いると、この質量差に対応するエネルギーは
\Delta mc^2
である。原子核をばらばらにするには、この差に対応するエネルギーを外部から与える必要がある。したがって結合エネルギーは
E_B=\Delta mc^2
である。
7関係式 4:半減期の整数回の式
半減期を T、初期の個数を N_0 とする。n 回の半減期が経過した後の個数は
\boxed{N_n=N_0\left(\frac12\right)^n}
である。
7.1証明
n=0 のとき、
N_0=N_0\left(\frac12\right)^0
であり、式は成立する。
n 回の半減期の後に
N_n=N_0\left(\frac12\right)^n
であると仮定する。半減期がさらに 1 回経過すると、個数は半分になるので
N_{n+1}=\frac12N_n
=\frac12N_0\left(\frac12\right)^n
=N_0\left(\frac12\right)^{n+1}
である。したがって数学的帰納法により、すべての自然数 n で成立する。
8指数減衰としての半減期
連続時間 t で扱うときは、
\boxed{N(t)=N_0\left(\frac12\right)^{t/T}}
と書く。これは、t/T 回ぶんの半減が起こったと見る指数関数の形である。t=T なら N=N_0/2、t=2T なら N=N_0/4 になり、関係式 4 と一致する。
9見分け方
- 核反応式では、まず A と Z の和を左右で合わせる。
- \alpha 崩壊では A が 4、Z が 2 減る。
- \beta^- 崩壊では A は変わらず、Z が 1 増える。
- エネルギーが問われたら、質量欠損 \Delta m を求めて E=\Delta mc^2 を使う。
- 半減期では、何回ぶん半分になるかを先に数える。
10どこまで成立するか
E=\Delta mc^2 は質量とエネルギーの等価性を使う。反応の詳細では、運動エネルギー、放射線のエネルギー、ニュートリノなどがエネルギーを分担する。半減期は大量の原子核についての統計的な法則であり、個々の原子核がいつ崩壊するかを決定する式ではない。
11最終形
\boxed{\Delta m=Zm_p+(A-Z)m_n-M_{\text{nuc}}}
\boxed{E_B=\Delta mc^2}
\boxed{N=N_0\left(\frac12\right)^{t/T}}
12一言
原子核では、核反応を A と Z の保存で追い、エネルギーを質量欠損で測る。