標本化と標本化定理の基本
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1導入
この講義では、連続時間信号の一様標本化をインパルス列との乗算として表現し、周波数領域に生じるスペクトルの反復から、復元条件とエイリアシングを説明する。
2一様標本化
標本化とは、連続時間信号から離散時刻の値を取得する操作である。標本化周期を T_s>0、標本化周波数を f_s=1/T_s とすると、標本列は
x[n]=x(nT_s),\qquad n\in\mathbb Z
である。単位は T_s が s、f_s が Hz である。
Dirac のデルタ \delta(t-t_0) は通常の関数ではなく、滑らかでコンパクトな台をもつ試験関数 \varphi に対して
\int_{-\infty}^{\infty}\varphi(t)\delta(t-t_0)\,dt=\varphi(t_0)
という抽出特性をもつ超関数である。この理想化を用いて、一様標本化を連続時間で表現するため、周期 T_s のインパルス列
p(t)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\delta(t-nT_s)
を導入する。標本化信号は
x_s(t)=x(t)p(t)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}x(nT_s)\delta(t-nT_s)
となる。この式は理想模型であり、現実の A/D 変換器における有限時間の標本取得や量子化は別の効果である。
3スペクトルの反復
インパルス列のフーリエ変換は
P(f)=f_s\sum_{k=-\infty}^{\infty}\delta(f-kf_s)
である。時間領域の乗算は周波数領域の畳み込みに対応するため、
X_s(f)=X(f)*P(f)=f_s\sum_{k=-\infty}^{\infty}X(f-kf_s)
を得る。すなわち、X(f) の複写が f_s 間隔で反復する。f_s は複写間隔であり、ナイキスト周波数 f_s/2 は基底帯域の慣用的な境界である。帯域上限 B に対するナイキスト率 2B とは異なる量である。この境界での一意性には注意が必要であり、後述する。
4標本化定理
x(t) が連続な有限エネルギー信号であり、かつ帯域制限され、
X(f)=0\qquad (|f|>B)
を満たすと仮定する。さらに f_s>2B なら、隣接するスペクトルの複写は間隔 f_s-2B>0 を保ち、重ならない。理想低域通過フィルタで中央の複写だけを抽出し、利得 T_s を与えれば、X(f)、したがって x(t) を一意に復元できる。
したがって、厳密に帯域制限された連続時間信号に対し、
\boxed{f_s>2B}
は理想標本からの完全復元を保証する十分条件である。この主張は無限長の信号、正確な標本値、理想的な復元フィルタを仮定する。
\operatorname{sinc}(u)=\sin(\pi u)/(\pi u) と定義すると、復元はsinc 補間
x(t)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}x(nT_s)\operatorname{sinc}\!\left(\frac{t-nT_s}{T_s}\right)
によっても表現できる。この無限和は理想低域通過フィルタによる復元と同じ内容を表す。
5境界 f_s=2B
f_s=2B では、隣接するスペクトルの複写が f=\pm B で接する。前節の有限エネルギー信号では、端点だけの値は L^2 関数としての信号を変更しないため、これだけから非一意性は結論できない。ただし、電力信号も含む工学的な信号モデルでは、境界に注意が必要である。たとえば、有限エネルギー仮定の外にある x(t)=\sin(2\pi Bt) を f_s=2B で、すべての標本時刻が零交差に一致する位相から標本化すると、すべての標本値が 0 となる。このため、この講義では端点の曖昧性を避ける保守的な工学上の保証条件として、f_s>2B を採用する。
6エイリアシングとアンチエイリアスフィルタ
f_s<2B の場合、または入力が f_s/2 を超える成分を含む場合は、スペクトルの複写が重なる。f_s/2 ちょうどの成分は、前節で述べた境界条件として扱う。エイリアシングとは、この重なりによって異なる連続時間周波数が同一の標本列として観測される現象である。たとえば、f と f+kf_s の正弦波は標本時刻で区別できない。
標本化後に重なったスペクトルから元の成分を一般に分離することはできない。このため、A/D 変換の前にアナログアンチエイリアスフィルタを配置し、f_s/2 以上の成分を十分に減衰させる。現実のフィルタには遷移帯域があるため、信号帯域と f_s/2 の間に余裕を設ける。
7要点
- インパルス列による標本化は、周波数領域で f_s 間隔のスペクトル複写を生成する。
- |f|>B で X(f)=0 となり、かつ f_s>2B の下で、理想的な完全復元が可能である。
- f_s=2B の扱いは信号クラスと端点条件に依存するため、保守的な工学上の保証には厳密不等号を用いる。
- エイリアシングは標本化後に一般には除去できないため、標本化前のフィルタと十分な標本化周波数が必要である。
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