極限と連続
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1導入
この講義では、極限は対象点の周辺における関数値の収束を表し、連続性はその極限と対象点の関数値との一致を表すことを説明する。
直感だけで「接近」を扱うと曖昧性が残る。19 世紀にコーシーとワイエルシュトラスが \varepsilon-\delta 論法を整備したことで、至るところで微分不可能な連続関数など、幾何学的直観に反する例も厳密に解析できるようになった。
2用語と定義
2.1極限
定義域を D\subseteq\mathbb{R} とする関数 f:D\to\mathbb{R} と、D の集積点 a を考える。
\lim_{x \to a} f(x) = L
とは、任意の \varepsilon > 0 に対してある \delta > 0 が存在して
\forall x\in D,\quad 0 < |x - a| < \delta \implies |f(x) - L| < \varepsilon
となることである(\varepsilon-\delta 論法)。
記号の意味:\varepsilon(epsilon)は出力の許容誤差、\delta(delta)は入力の調整量。「どんなに厳い精度を要求されても(\varepsilon > 0)、入力を十分絞れば(\delta を小さく取れば)出力の誤差を \varepsilon 未満に抑えられる」という主張である。
2.2連続
f が a で連続であるとは以下の 3 条件が成立することである:
- f(a) が定義されている
- \lim_{x \to a} f(x) が存在する
- \lim_{x \to a} f(x) = f(a)
3 条件を分離して書くのは、違反するポイントが不連続の種類を決めるからである。
2.3片側極限
\lim_{x\to a-}f(x)=L
は、x を a より小さい側から a へ近づけたときに f(x) が L へ収束することを表す。同様に
\lim_{x\to a+}f(x)=L
は、x を a より大きい側から近づける場合である。
a が D の左右双方からの集積点である場合、両側極限 \lim_{x\to a}f(x) が存在することと、左極限・右極限が存在して一致することは同値である。定義域が区間で a がその端点である場合は、定義域内から接近可能な側の片側極限を D に相対的な極限として扱う。
3方針
極限の計算では「直接代入」→「因数分解で約分」→「はさみうち」の順に試みる。連続性の確認では 3 条件を別々に確認する。
4厳密な説明
4.11. \varepsilon-\delta 論法の最小例
\lim_{x\to2}(3x-1)=5
を \varepsilon-\delta 論法で証明する。任意の \varepsilon>0 を取る。目標は
|3x-1-5|<\varepsilon
を実現する \delta を構成することである。左辺を整理すると
|3x-1-5|=3|x-2|
したがって、|x-2|<\varepsilon/3 なら十分である。したがって
\delta=\frac{\varepsilon}{3}
と設定すれば、
0<|x-2|<\delta
\implies
|3x-1-5|=3|x-2|<3\delta=\varepsilon
となる。この計算では、\delta を推測するのではなく、目標の不等式から逆算して十分条件を構成することが重要である。
4.22. 極限の計算技法
直接代入:f が a で連続なら \lim_{x \to a} f(x) = f(a)。多項式・有理関数(分母≠0)で直接使える。
因数分解法:\lim_{x \to 1} \dfrac{x^2 - 1}{x - 1}。分子を因数分解すると \dfrac{(x-1)(x+1)}{x-1} = x+1(x \neq 1)、極限は \lim_{x \to 1}(x+1) = 2。
はさみうちの定理(Squeeze theorem):g(x) \le f(x) \le h(x) かつ \lim_{x \to a} g(x) = \lim_{x \to a} h(x) = L なら \lim_{x \to a} f(x) = L。
例:\lim_{x \to 0} x \sin\dfrac{1}{x}。-|x| \le x \sin\dfrac{1}{x} \le |x| かつ \lim_{x \to 0} (\pm|x|) = 0 より、極限は 0。
基本極限(角度はラジアン):
\lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1
4.33. 本講義で扱う不連続の分類
以下では有限点における不連続のうち、無限極限を伴う場合を範囲外とする。
| 種類 | 特徴 | 例 | 修復可能性 |
| 除去可能不連続 | 有限極限は存在するが f(a) が未定義、または極限値と不一致 | \dfrac{x^2-1}{x-1} の x=1 | 値を再定義すれば連続化 |
| 跳躍不連続 | 左・右極限が存在するが不一致 | \text{sgn}(x) の x=0 | 修復不可能 |
| 振動不連続 | 振動により有限な片側極限が存在しない | \sin(1/x) の x=0 | 修復不可能 |
4.44. 連続関数の重要性質
中間値定理(Intermediate Value Theorem):f が [a, b] で連続なら、f(a) と f(b) の間の任意の値 c に対して、f(\xi) = c となる \xi \in [a, b] が存在する。c が f(a) と f(b) の狭義の中間値なら、\xi は (a,b) に属する。
意味:連続な関数は値を「飛ばす」ことができない。f(0) < 0 かつ f(1) > 0 なら零点が [0,1] に存在する(二分法の理論的根拠)。
最大値・最小値定理:閉区間 [a,b] で連続な f は最大値と最小値を必ず達成する(コンパクト性の帰結)。
4.55. なぜ \varepsilon-\delta が必要か
「近づく」を言葉だけで扱うと循環する。例:「f(x) は x \to a のとき L に近づく」= 「x が a に近いとき f(x) は L に近い」—「近い」が循環。
\varepsilon-\delta 論法は「近い」を定量化する。すなわち、|x-a| < \delta から |f(x)-L| < \varepsilon を導くことで、接近の制御を不等式へ帰着させる。
5判定基準
- 分母が 0 になる → 因数分解で約分できるか確認
- 0・有界量の形 → はさみうち
- f(a) が定義されていない → 極限と連続性を別に確認
- 零点の存在を示したい → 中間値定理
6どこまで成立するか
\varepsilon-\delta による極限の定義自体は実数の完備性を前提としないが、中間値定理などの存在定理の証明では完備性を利用する。有理数の範囲では成立しない定理がある(x^2-2 の零点の存在など)。多変数への拡張では、対象点へのすべての接近を一様に制御する必要がある。
7最終形
\boxed{\lim_{x\to a}f(x)=L \iff \forall\varepsilon>0\ \exists\delta>0\ \forall x\in D\ \bigl[0<|x-a|<\delta \implies |f(x)-L|<\varepsilon\bigr]}
\boxed{f \text{ が } a \text{ で連続} \iff \text{①定義②極限存在③一致}}
8要約
極限は対象点の周辺における収束を不等式で定式化し、連続性はその極限と関数値の一致を要求する。区間上の連続関数が中間値を欠落させないことは、中間値定理によって保証される。
9演習リンク
data/exercise/math/calculus/limits-and-continuity.exercise.n.md
10関連リンク
data/lecture/math/calculus/differentiation-basics.lecture.n.md
data/lecture/math/calculus/calculus-portal.lecture.n.md
data/lecture/math/calculus/fundamental-theorem-of-calculus.lecture.n.md