markdown
複素内積とユニタリ行列 (unitary matrix)md 064d63a
lecture/math/linear-algebra/complex-inner-products-and-unitary-matrices.lecture.n.md
Download PDF

複素内積ふくそないせきcomplex inner productとユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)

mathlinear-algebraundergraduatelecturecomplex-vector-space

1導入どうにゅう

この講義こうぎ重要じゅうようなのは、複素ふくそcomplex線型代数せんけいだいすうlinear algebraでは、転置てんちtranspose AT だけでは内積ないせきinner product両立りょうりつしないということである。

実数じっすうreal number世界せかいでは、対称行列たいしょうぎょうれつsymmetric matrix直交行列ちょっこうぎょうれつorthogonal matrix転置てんちtranspose AT中心ちゅうしんになる。一方いっぽう複素数ふくそすうcomplex number使つかうと、成分せいぶんcomponentえるだけでなく複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugate必要ひつようがある。その操作そうさoperation共役転置きょうやくてんちconjugate transpose A* である。

data/lecture/math/linear-algebra/inner-product-space-basics.lecture.n.md data/lecture/math/linear-algebra/identity-zero-and-transpose-matrices.lecture.n.md

2用語ようご定義ていぎ

複素内積空間ふくそないせきくうかんcomplex inner product spaceとは、複素ふくそベクトル空間くうかんcomplex vector space複素内積ふくそないせきcomplex inner productはいった空間くうかんspaceである。

エルミート内積ないせきHermitian inner productとは、共役対称性きょうやくたいしょうせいconjugate symmetry半線型性はんせんけいせいsesquilinearity複素内積ふくそないせきcomplex inner productである。この系列けいれつでは、だい 1 変数へんすう線型せんけいlinearだい 2 変数へんすう共役線型きょうやくせんけいconjugate-linearとする。

au+bv,w=au,w+bv,w
u,av+bw=a_u,v+b_u,w
u,v=v,u_

共役転置きょうやくてんちconjugate transposeとは、複素行列ふくそぎょうれつcomplex matrix A=(aij)たいして、転置てんちしてから各成分かくせいぶん複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugate操作そうさoperationである。

(A*)ij=aji_

随伴ずいはんadjointとは、線型写像せんけいしゃぞうlinear map T:VVたいして

Tx,y=x,T*y

たす線型写像せんけいしゃぞうlinear map T* である。標準ひょうじゅん複素内積ふくそないせきcomplex inner product使つか行列表示ぎょうれつひょうじでは、随伴ずいはんadjoint共役転置きょうやくてんちconjugate transpose A*対応たいおうする。

エルミート行列ぎょうれつHermitian matrixとは、

A*=A

たす複素正方行列ふくそせいほうぎょうれつcomplex square matrixである。これは自己随伴じこずいはんself-adjoint行列ぎょうれつmatrixである。

ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)とは、

U*U=UU*=I

たす複素正方行列ふくそせいほうぎょうれつcomplex square matrixである。

正規行列せいきぎょうれつnormal matrixとは、

A*A=AA*

たす複素正方行列ふくそせいほうぎょうれつcomplex square matrixである。

3方針ほうしん

まず、複素内積ふくそないせきcomplex inner productでは共役きょうやくがどこにあらわれるかを固定こていする。つぎに、共役転置きょうやくてんちconjugate transpose A*内積ないせきinner productなかなに移動いどうしているかを確認かくにんする。そこから、ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)はながlength直交ちょっこうorthogonality保存ほぞんし、エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix内積ないせきinner product両立りょうりつする伸縮しんしゅくあらわす、と整理せいりする。

4直感的ちょっかんてき説明せつめい

複素数ふくそすうcomplex numberにはおおきさと位相いそうphaseがある。位相いそうphase成分せいぶんcomponentどうしをくらべるには、ただけるだけではなく、一方いっぽう共役きょうやくにして位相差いそうさはか必要ひつようがある。

れいとして z=iかんがえる。もし単純たんじゅんz2ながさの 2 じょうると、i2=-1 になり、ながさがになる。そこで

zz_=|z|2

使つかう。複素内積ふくそないせきcomplex inner product複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugateあらわれる理由りゆうは、この単純たんじゅん事実じじつにある。

5厳密げんみつ説明せつめい

5.11. 標準ひょうじゅん複素内積ふくそないせきcomplex inner product

この系列けいれつでは、Cn標準ひょうじゅん複素内積ふくそないせきcomplex inner product

x,y=k=1nxkyk_

く。この規約きやくではだい 1 変数へんすう線型せんけいlinearである。

ax,y=ax,y

一方いっぽうだい 2 変数へんすうでは複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugateあらわれる。

x,ay=a_x,y

この規約きやく明示めいじするのは、教科書きょうかしょによってだい 2 変数へんすう線型せんけいlinearにする流儀りゅうぎもあるからである。流儀りゅうぎわると、射影係数しゃえいけいすうprojection coefficient随伴ずいはんadjointしき共役きょうやく位置いちわる。

5.22. A*必要ひつようになる理由りゆう

実行列じつぎょうれつreal matrixでは、標準内積ひょうじゅんないせきたいして

Ax,y=x,ATy

成立せいりつする。複素行列ふくそぎょうれつcomplex matrixでは、おな役割やくわりたすのは AT ではなく A* である。

[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")]Ax,y=x,A*y

したがって A* は、内積ないせきinner productなか線型写像せんけいしゃぞうlinear map左側ひだりがわから右側みぎがわうつ操作そうさoperationとして理解りかいできる。

5.33. ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)が保存ほぞんするもの

U*U=I なら、任意にんいx,yたいして

Ux,Uy=x,U*Uy=x,y

である。したがってユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)は、内積ないせきinner productながlength直交ちょっこうorthogonality保存ほぞんする。

Ux=x,x,y=0Ux,Uy=0

これは実数じっすうreal number直交行列ちょっこうぎょうれつorthogonal matrix複素数版ふくそすうばんcomplex versionである。

5.44. エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix意味いみするもの

A*=A なら

Ax,y=x,Ay

である。つまり、エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix内積ないせきinner product左右さゆうえてもおな作用さようとしてめる行列ぎょうれつmatrixである。

つぎ事実じじつは、固有値こゆうちeigenvalue対角化たいかくかdiagonalization導入どうにゅうしたあと本格的ほんかくてき使つか見通みとおしである。この性質せいしつにより、エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix固有値こゆうちeigenvalue実数じっすうreal numberになり、ことなる固有値こゆうちeigenvalueぞくする固有ベクトルeigenvector直交ちょっこうorthogonalする。さらに有限次元ゆうげんじげんでは、ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)で対角化たいかくかdiagonalizationできる。

data/lecture/math/linear-algebra/symmetric-matrices-and-orthogonal-diagonalization.lecture.n.md

5.55. エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix正規行列せいきぎょうれつnormal matrixちが

正規行列せいきぎょうれつnormal matrixA*A=AA*たす。これは AA*作用さよう交換こうかんできるという条件じょうけんである。エルミート行列ぎょうれつHermitian matrixA*=A なので自動的じどうてき正規行列せいきぎょうれつnormal matrixである。

種類しゅるい条件じょうけん保存ほぞん性質せいしつ
ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)U*U=UU*=I内積ないせきinner productながlength保存ほぞんする
エルミート行列ぎょうれつHermitian matrixA*=A自己随伴じこずいはんself-adjointで、固有値こゆうちeigenvalue実数じっすうreal numberになる
正規行列せいきぎょうれつnormal matrixA*A=AA*ユニタリ対角化たいかくかunitary diagonalizationできる

ひょう固有値こゆうち対角化たいかくかかんする性質せいしつは、後続こうぞく固有値こゆうち直交対角化ちょっこうたいかくか講義こうぎ証明しょうめいする。

6具体例ぐたいれい

6.1れい 1:複素内積ふくそないせきcomplex inner product計算けいさんする

u=(1i),v=(i1)

とする。この規約きやくでは

u,v=1·i_+i·1_=-i+i=0

である。したがって uv直交ちょっこうorthogonalする。ここで共役きょうやくわすれると 1·i+i·1=2i となり、直交ちょっこうorthogonal誤判定ごはんていする。

6.2れい 2:エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix判定はんていする

A=(2i-i3)

では、

A*=(2i-i3)=A

である。したがって Aエルミート行列ぎょうれつHermitian matrixである。対角成分たいかくせいぶん実数じっすうreal numberで、非対角成分ひたいかくせいぶんたがいに複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugateになっている。

6.3れい 3:ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)を判定はんていする

U=(100i)

とする。このとき

U*=(100-i)

であり、

U*U=I

である。したがって U はユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)である。この行列ぎょうれつmatrixだい 2 成分せいぶんcomponent位相いそうphaseだけを回転かいてんし、ながさはえない。

7判定基準はんていきじゅん

  • 複素ふくそ成分せいぶんcomplex entryふく内積ないせきinner productでは、かなら複素共役ふくそきょうやくcomplex conjugate位置いち確認かくにんする。
  • エルミート内積ないせきHermitian inner productでは、この系列けいれつ規約きやくとしてだい 1 変数へんすう線型せんけいlinearである。
  • ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)は内積ないせきinner productながlength保存ほぞんする。
  • エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix実対称行列じつたいしょうぎょうれつreal symmetric matrix複素数版ふくそすうばんcomplex versionである。
  • エルミート行列ぎょうれつHermitian matrix正規行列せいきぎょうれつnormal matrixであるが、正規行列せいきぎょうれつnormal matrixがすべてエルミート行列ぎょうれつHermitian matrixであるわけではない。

8どこまで成立せいりつするか

随伴ずいはんadjoint内積ないせきinner product依存いぞんする。標準ひょうじゅん複素内積ふくそないせきcomplex inner product使つか行列ぎょうれつmatrixでは A*随伴ずいはんになるが、べつ内積ないせきinner productれた空間くうかんでは、おな成分表示せいぶんひょうじ行列ぎょうれつmatrixでも随伴ずいはん行列表示ぎょうれつひょうじわることがある。

また、正規行列せいきぎょうれつnormal matrixユニタリ対角化たいかくかunitary diagonalization有限次元ゆうげんじげん複素内積空間ふくそないせきくうかんcomplex inner product spaceあつか主張しゅちょうである。実数じっすうreal numberだけでかんがえると、回転行列かいてんぎょうれつのように実固有値じつこゆうちreal eigenvalueりない場合ばあいがある。

9最終形さいしゅうけい

[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")]x,y=k=1nxkyk_
[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")](A*)ij=aji_
[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")]Ax,y=x,A*y
[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")]U*U=IUはエルミート内積を保存する
[PARSE ERROR: Undefined("Command(\"boxed\")")]A*=AAはエルミート行列である

10一言ひとことでいうと

  • エルミート内積ないせきHermitian inner productは、複素数ふくそすうcomplex number位相いそうphaseふくめてながlength直交ちょっこうorthogonalityはかるための内積ないせきinner productである。
  • ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)は、その内積構造ないせきこうぞうinner product structureこわさない複素線型変換ふくそせんけいへんかんcomplex linear transformationである。

複素ふくそベクトル空間くうかんでは、共役きょうやくかざりではない。x,x実数じっすうかつ非負ひふにするために必要ひつようである。したがって、複素ふくそ内積ないせきinner productただしく対応たいおうする操作そうさは、転置てんち AT ではなく共役転置きょうやくてんち A* である。

ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix) は U*U=Iたすので、内積ないせき、ノルム、直交ちょっこうorthogonality距離きょり保存ほぞんする。正規行列せいきぎょうれつのユニタリ対角化たいかくかは、あとの固有値こゆうち対角化たいかくか本格的ほんかくてきあつか先取さきどりである。このページでは「複素ふくそでは直交行列ちょっこうぎょうれつ役割やくわりをユニタリ行列ぎょうれつになう」という見通みとおしとしてむ。

11定理ていり証明しょうめい:エルミート行列ぎょうれつ固有値こゆうちeigenvalue実数じっすうで、ことなる固有値こゆうちeigenvalue固有ベクトルeigenvector直交ちょっこうorthogonalする

この定理ていりは、後続こうぞく固有値論こゆうちろんeigenvalue theoryへの橋渡はしわたしである。ここでは固有値こゆうちeigenvalue本格的ほんかくてき展開てんかいするのではなく、証明しょうめい使つか前提ぜんてい本文ほんぶんなかじておく。

正方行列せいほうぎょうれつsquare matrix Av0 について Av=λv成立せいりつするとき、λ固有値こゆうちeigenvaluevλぞくする固有ベクトルeigenvectorという。おなλぞくする固有ベクトルeigenvector全体ぜんたい0くわえた集合しゅうごう

Eλ=ker(A-λI)

固有空間こゆうくうかんeigenspaceという。この証明しょうめい使つか前提ぜんていは、v0 なら v,v>0、エルミートせい A*=A から Ax,y=x,Ay、そして Av=λv という固有値こゆうちeigenvalue定義ていぎだけである。

data/lecture/math/linear-algebra/eigenvalues-and-eigenvectors.lecture.n.md data/lecture/math/linear-algebra/symmetric-matrices-and-orthogonal-diagonalization.lecture.n.md

A*=A とし、Av=λvv0 とする。このとき

λv,v=Av,v=v,Av=λ_v,v

である。v,v>0 なので λ=λ_ となり、λ実数じっすうreal numberである。

さらに Au=λuAv=μvλμ とする。エルミートせいより

λu,v=Au,v=u,Av=μ_u,v

である。すでに μ実数じっすうなので μ_=μ であり、

(λ-μ)u,v=0

る。λμ より u,v=0 である。したがってことなる固有値こゆうちeigenvalueぞくする固有ベクトルeigenvector直交ちょっこうorthogonalする。

この定理ていりは、エルミート行列ぎょうれつ複素ふくそ世界せかいでも「実対称行列じつたいしょうぎょうれつおな幾何きか」をつことをしめしている。

12同値条件どうちじょうけん:ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)

複素正方行列ふくそせいほうぎょうれつcomplex square matrix U について、つぎ同値どうちequivalentである。

  • U*U=I
  • UU*=I
  • U-1=U*
  • Uれつcolumn正規直交基底せいきちょっこうきていorthonormal basis
  • Ux,Uy=x,y任意にんいx,y成立せいりつする

この同値性どうちせいにより、ユニタリ行列ぎょうれつは「逆行列ぎゃくぎょうれつ共役転置きょうやくてんちあたえられる行列ぎょうれつ」とも「内積ないせきinner productたも座標変換ざひょうへんかん」ともめる。

13定理ていり証明しょうめい:ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix) は内積ないせきノルムnormたも

U がユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)、つまり U*U=Iたすとする。このとき任意にんい複素ふくそベクトル x,y について

Ux,Uy=x,y

である。

証明しょうめいする。この講義こうぎ規約きやくではだい 1 変数へんすう線型せんけいlinearなので、標準ひょうじゅん複素内積ふくそないせきcomplex inner productx,y=y*xける。したがって

Ux,Uy=(Uy)*(Ux)=y*U*Ux=y*Ix=y*x=x,y

である。ノルムnormについては y=x とおけば

Ux2=Ux,Ux=x,x=x2

である。両辺りょうへん非負ひふなので Ux=x である。

したがって、ユニタリ行列ぎょうれつ (unitary matrix)は複素空間ふくそくうかんでのながさと角度かくどたも変換へんかんである。

raw .n.md をコピー
loc をコピー (filepath:line ~ line)
copy share link
copy encoded share link
path をコピー
copy share link
copy encoded share link
copy share link
copy encoded share link
タブを全て閉じる