13定理:最小二乗解の存在と直交射影
A\in\mathbb R^{m\times n} と b\in\mathbb R^m に対して、\|Ax-b\| を最小にする x は常に存在する。ただし x が一意であるとは限らない。一意なのは、最良近似 \hat b=Ax、すなわち b の \operatorname{Col}(A) への直交射影である。
理由は、\operatorname{Col}(A) が有限次元の部分空間なので、b は
b=\hat b+r,\qquad \hat b\in\operatorname{Col}(A),\quad r\in\operatorname{Col}(A)^\perp
と直交分解できるからである。Ax が \hat b に等しいような x を選べば、任意の y について
\|Ay-b\|^2
=
\|Ay-\hat b\|^2+\|r\|^2
\ge
\|r\|^2
=
\|Ax-b\|^2
である。ここで Ay-\hat b\in\operatorname{Col}(A) と r\perp\operatorname{Col}(A) を使った。この証明は、最小二乗法が微分計算ではなく直交分解に基づくことを示している。
14階数落ちの場合と最小ノルム解
A の列が一次従属なら、A^TA は可逆でない。このとき正規方程式
A^TAx=A^Tb
は解を複数持つことがある。複数の解は同じ Ax=\hat b を与え、差は \ker A に属する。したがって、代表解を一意に選ぶには \ker A 方向の成分を持たない最小ノルム解を選ぶ。この選択を擬似逆行列が実現する。
data/lecture/math/linear-algebra/pseudoinverse-basics.lecture.n.md
15計算例:2 変数の直線近似
点 (0,1),(1,2),(2,2) を y=\alpha+\beta t で近似する。行列で書くと
A=
\begin{pmatrix}
1&0\\
1&1\\
1&2
\end{pmatrix},
\qquad
x=
\begin{pmatrix}\alpha\\ \beta\end{pmatrix},
\qquad
b=
\begin{pmatrix}1\\2\\2\end{pmatrix}
である。正規方程式は
A^TA=
\begin{pmatrix}
3&3\\
3&5
\end{pmatrix},
\qquad
A^Tb=
\begin{pmatrix}5\\6\end{pmatrix}
より
\begin{pmatrix}
3&3\\
3&5
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}\alpha\\ \beta\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}5\\6\end{pmatrix}.
これを解くと
\alpha=\frac76,\qquad \beta=\frac12
である。したがって最良近似直線は
y=\frac76+\frac12t
である。残差は b-Ax であり、A の 2 本の列に直交する。
16数値計算での実務的な注意
A^TA を作ると条件数は概ね二乗される。つまり、もとの A が少し悪条件なだけでも、A^TA は大きく不安定になりうる。理論の証明では正規方程式が本質を示すが、数値計算では QR 分解や特異値分解を使うのが安全である。
data/lecture/math/linear-algebra/introduction-to-singular-value-decomposition.lecture.n.md
17最終形
\boxed{\min_x \|Ax-b\|^2}
\boxed{A^T(b-Ax)=0}
\boxed{A^TAx=A^Tb}
\boxed{P=A(A^TA)^{-1}A^T\quad(\text{full column rank})}
\boxed{A^*Ax=A^*b\quad(\text{complex case})}