10命題:A^+b が選ぶ解
擬似逆行列は、Ax=b の状況に応じて次の意味を持つ。
- Ax=b が解を持つ場合、A^+b はその解の中でノルムが最小のものを与える。
- Ax=b が解を持たない場合、A^+b は \|Ax-b\| を最小にする解の中でノルムが最小のものを与える。
SVD で A=U\Sigma V^* と書き、U^*b=c と置くと、問題は
\min_y\|\Sigma y-c\|
へ変換される。\Sigma は対角方向の伸縮だけなので、\sigma_i>0 の方向では y_i=c_i/\sigma_i と決まり、\sigma_i=0 の方向では y_i は残差を減らせない。そこで最小ノルムにするため y_i=0 を選ぶ。この選択が
x=A^+b=V\Sigma^+U^*b
である。
11射影の意味を確認する
AA^+ は \operatorname{Col}(A) への直交射影である。したがって AA^+b は b の到達可能な部分、つまり A の列空間に最も近い点を表す。
一方、A^+A は \operatorname{Row}(A) への直交射影である。これは x から \ker(A) 方向の余分な成分を除き、最小ノルムの代表元を選ぶ操作である。
12計算例:長方行列の擬似逆行列
A=
\begin{pmatrix}
1\\
1
\end{pmatrix}
とする。これは \mathbb R から \mathbb R^2 への写像で、x を (x,x) に送る。列は一次独立なので
A^+=(A^TA)^{-1}A^T
=
\frac12
\begin{pmatrix}
1&1
\end{pmatrix}.
b=(1,3)^T に対して
A^+b=2
であり、Ax=(2,2)^T が b の \operatorname{span}\{(1,1)^T\} への直交射影になる。これは 2 点 1,3 の平均を取る操作と同じである。
13落とし穴:小さい特異値
\sigma_i が 0 ではないが非常に小さい場合、1/\sigma_i は非常に大きくなり、b の小さな誤差を大きく増幅する。このため、理論上の A^+ がいつも数値的に良い選択とは限らない。実務では切断 SVD や Tikhonov 正則化を使い、小さな特異値の逆数を抑える。
14最終形
\boxed{A=U\Sigma V^T,\qquad A^+=V\Sigma^+U^T}
\boxed{A=U\Sigma V^*,\qquad A^+=V\Sigma^+U^*\quad(\text{complex case})}
\boxed{x=A^+b}
\boxed{A^+=(A^TA)^{-1}A^T\quad\text{if columns are independent}}
\boxed{AA^+=\operatorname{proj}_{\operatorname{Col}(A)},\qquad A^+A=\operatorname{proj}_{\operatorname{Row}(A)}}