4直感的な説明
拡大だけなら、後で縮小すれば復元できる。回転だけなら、逆向きに回転すれば復元できる。しかし、平面を 1 本の直線へつぶす写像は、情報が失われるので復元できない。これが逆行列がない場合である。
5厳密な説明
5.11. 定義
A を n\times n 正方行列とする。A^{-1} が存在するとき
AA^{-1}=I,\qquad A^{-1}A=I
である。長方行列では左右の行列サイズが一致しないため、この意味での逆行列は定義しない。
5.22. 掃き出しで求める
\left(A \mid I\right)
を構成し、左側を I へ掃き出す。すると右側が A^{-1} になる。
5.33. 存在しない場合
掃き出しの途中で主成分を確保できず、階数が不足するときは、逆行列は存在しない。
5.44. 可逆性の同値条件
A を n\times n 行列とする。このとき、次の条件は互いに同値である。
ただし、行列式による判定は、あとでくわしく導入する先取りである。このページの本流では、掃き出し、階数、核、解の一意性で可逆性を判定する。
- A^{-1} が存在する。
- \operatorname{rank}(A)=n である。
- \ker(A)=\{0\} である。
- A:K^n\to K^n は単射であり、全射である。
- 任意の b\in K^n に対して、Ax=b が一意解を持つ。
- \det A\neq 0 である(あとで行列式として扱う同値条件)。
- 掃き出しで全列に主成分が存在する。
この一覧は、逆行列が単なる計算公式ではなく、情報が失われないことを表す複数の判定条件の交点であることを示す。核が \{0\} であれば 0 に潰れる非零の方向がなく、階数が n であれば出力空間を全体として到達できる。
論理の橋渡しを書くと、まず \ker(A)=\{0\} は「異なる入力が同じ出力へ潰れない」ことを意味する。したがって Ax=b の解が存在すれば、その解は一意である。有限次元の K^n\to K^n では、\ker(A)=\{0\} なら階数・退化次数定理より \operatorname{rank}(A)=n である。すると像は K^n 全体なので、任意の b\in K^n に対して Ax=b は存在する。以上から「任意の b に対して一意解を持つ」ことが従い、その解を b に対応させる写像が A^{-1} である。
data/lecture/math/linear-algebra/rank-and-nullity-of-linear-maps.lecture.n.md
5.55. 長方行列の片側逆
A が m\times n 行列の場合、両側逆の代わりに片側逆を考察できる。LA=I_n を満たす L は左逆であり、これは A が列満階数、すなわち \operatorname{rank}(A)=n のときに存在する。AR=I_m を満たす R は右逆であり、これは A が行満階数、すなわち \operatorname{rank}(A)=m のときに存在する。
片側逆は一意とは限らない。列が不足したり行が不足したりする場合には、最小二乗解や最小ノルム解を選択する基準が必要になる。この基準を標準的に与えるのが擬似逆行列である。
擬似逆行列は、あとの発展項目である。ここでは、長方行列には正方行列と同じ両側逆がないことを見通しとしておさえる。
data/lecture/math/linear-algebra/pseudoinverse-basics.lecture.n.md
6判定基準
- 写像を復元したい、または Ax=b を一括で解きたいなら、逆行列を検討する。
- 掃き出して左側を I にできるかが、存在判定の鍵である。
- 行列式が 0 でないこと、階数が n であること、核が \{0\} であることは、同じ可逆性を別の角度から述べた条件である。
- 核、階数、任意の右辺への一意解、逆写像の存在は、情報が失われないことを別表現したものである。