用語と定義
ジューコフスキー変換とは、典型的には
J(z)=z+\frac{1}{z}
で定義される複素関数である。文献によっては
\zeta=\frac{1}{2}\left(z+\frac{1}{z}\right)
を用いる。係数 \frac{1}{2} は全体の拡大縮小を変えるだけであり、写像の本質は同一である。
等角写像 とは、局所的に角度を保つ写像である。正則かつ導関数が 0 でない点では、複素関数は等角写像として作用する。
直感的な説明
z と \frac{1}{z} を足す形は、点 z と、その反転 \frac{1}{z} を同時に参照する形である。半径 r の円を z=re^{i\theta} と表すと、\frac{1}{z}=\frac{1}{r}e^{-i\theta} であるから、半径の情報と角度の情報が反対向きに混ざる。
この混合により、円周は楕円に移る。単位円だけは特別で、上下方向の成分が相殺され、実軸の線分へ潰れる。
さらに中心を少しずらした円を使うと、像は楕円から非対称な形へ変化する。その円が z=1 を通るように設定すると、導関数が 0 になる点が境界に乗るため、像に鋭い尖点が現れる。これが翼の後縁を表現する数学的機構である。
厳密な説明
1. 円が楕円へ移る計算
z=re^{i\theta} と置く。ただし r>0 とする。このとき
J(z)=re^{i\theta}+\frac{1}{r}e^{-i\theta}
である。オイラーの公式から e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta、e^{-i\theta}=\cos\theta-i\sin\theta なので、
J(z)=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta
+i\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta
となる。像の実部を x、虚部を y と書けば、
x=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta,\qquad
y=\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta
である。したがって r\ne 1 では
\frac{x^2}{\left(r+\frac{1}{r}\right)^2}
+
\frac{y^2}{\left(r-\frac{1}{r}\right)^2}
=1
を得る。これは楕円の方程式である。
r=1 のときは y=0 となり、x=2\cos\theta であるから、単位円は実軸の線分 [-2,2] へ移る。
2. 等角性が壊れる点
J の導関数は
J'(z)=1-\frac{1}{z^2}
である。したがって
J'(z)=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
z^2=1
\quad\Longleftrightarrow\quad
z=\pm 1
となる。z=0 では J そのものが定義されないため、除外する。結論として、z=0,\pm1 を避けた領域では、J は局所的に等角写像として作用する。
3. 尖点が発生する理由
z=1 の近傍を確認する。z=1+\varepsilon と置くと、
\frac{1}{1+\varepsilon}
=1-\varepsilon+\varepsilon^2-\varepsilon^3+O(\varepsilon^4)
である。したがって
J(1+\varepsilon)
=1+\varepsilon+\frac{1}{1+\varepsilon}
=2+\varepsilon^2-\varepsilon^3+O(\varepsilon^4)
を得る。一次の項が消滅し、最初に効く変化が \varepsilon^2 になる。これは、境界の近い 2 方向が像の同じ接線方向へ折り込まれることを意味する。この折込みが尖点を生む。
このため、翼型を作る発想は、円をただ変形することではない。臨界点 z=1 を境界に置き、像の後縁を尖らせることが本質である。
4. 大域的には 1 対 1 でない
J には
J(z)=J\left(\frac{1}{z}\right)
という対称性がある。したがって、全平面から 0 を除いた領域で 1 対 1 にはならない。
しかし、たとえば |z|>1 の外部領域へ制限すれば、像を切断平面として捉えることで等角写像として使用できる。この逆写像を求めると
w=z+\frac{1}{z}
\quad\Longleftrightarrow\quad
z^2-wz+1=0
なので、
z=\frac{w\pm\sqrt{w^2-4}}{2}
を得る。平方根が現れるため、枝の選択と枝切りが必要になる。これは、局所的には正則でも、大域的には逆写像の扱いが繊細になる典型例である。
具体例
円 |z|=2 を考える。このとき r=2 なので、
x=\frac{5}{2}\cos\theta,\qquad
y=\frac{3}{2}\sin\theta
である。したがって像は
\frac{x^2}{(5/2)^2}+\frac{y^2}{(3/2)^2}=1
という楕円になる。半径が 1 から離れるほど、縦方向の潰れが弱まり、楕円としての厚みが増す。
最終形
\boxed{J(z)=z+\frac{1}{z}}
\boxed{J'(z)=1-\frac{1}{z^2},\qquad J'(\pm1)=0}
\boxed{z=re^{i\theta}\Rightarrow
J(z)=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta
+i\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta}