解析力学の入口
physicsanalytical-mechanicsgeneralized-coordinateslecture
1導入
この講義では、解析力学を「難しい公式」としてではなく、拘束条件で動けない方向を最初から消し、本当に動ける自由度だけで運動を書く方法として解説する。
ニュートン力学では、質点に働く力を全部自由体図に入れ、成分ごとに \sum F=ma を立てる。これは基本である。しかし振り子、滑らかな面の上の運動、剛体の運動では、張力や垂直抗力のような拘束力が式を複雑にする。解析力学は、この複雑さの根本にある「使っている座標が余分である」という問題を直す。
2用語と定義
配置とは、ある時刻の系の位置関係を指定する情報である。
自由度とは、系の配置を指定するのに必要な独立な数の個数である。
拘束条件とは、座標の間に課される条件である。たとえば長さ \ell の糸につながれた振り子では
x^2+y^2=\ell^2
が拘束条件である。
一般化座標とは、拘束条件を満たす配置を指定するために選ぶ独立な座標である。直交座標である必要はなく、角度や長さでもよい。
仮想変位とは、時刻を固定したまま、拘束条件を破らない微小な配置の変化である。
3方針
解析力学では、次の順序で考える。
- 拘束条件を確認する。
- 自由度を数える。
- 一般化座標 q_1,\dots,q_n を選ぶ。
- 位置と速度を q_i,\dot q_i で書く。
- 運動エネルギー T と位置エネルギー U を書く。
- ラグランジアン L=T-U から Euler-Lagrange 方程式を作る。
この順序を守る理由は、力を書く前に、そもそも系がどの方向へ動けるのかを確定するためである。
4整理 1:振り子の自由度は 1 である
長さ \ell の糸につながれた平面内の振り子では、拘束条件 x^2+y^2=\ell^2 のもとで自由度は 1 である。
4.1証明
平面内の質点の位置は、拘束がなければ 2 つの座標 x,y で指定される。しかし振り子では
x^2+y^2=\ell^2
を満たさなければならない。この式により、x,y は独立ではない。
角度 \theta を用いて
x=\ell\sin\theta,\qquad y=-\ell\cos\theta
と置くと、
x^2+y^2=\ell^2\sin^2\theta+\ell^2\cos^2\theta=\ell^2
であり、拘束条件は自動的に満たされる。逆に、円周上の点は角度 \theta で指定できる。したがって独立な座標は \theta 1 つで足り、自由度は 1 である。
5関係式 2:振り子の速さ
x=\ell\sin\theta,\ y=-\ell\cos\theta と置くと、質点の速さの二乗は
\boxed{v^2=\ell^2\dot\theta^2}
である。
5.1証明
時間で微分すると、
\dot x=\ell\dot\theta\cos\theta,\qquad
\dot y=\ell\dot\theta\sin\theta
である。したがって
v^2=\dot x^2+\dot y^2
に代入すると、
v^2=\ell^2\dot\theta^2\cos^2\theta+\ell^2\dot\theta^2\sin^2\theta
=\ell^2\dot\theta^2
である。
6関係式 3:理想的な糸の張力は仮想仕事をしない
長さが変わらない理想的な糸で拘束された振り子では、張力は許された仮想変位に対して仕事をしない。
6.1証明
張力は糸の方向、つまり円の半径方向に働く。一方、拘束条件 x^2+y^2=\ell^2 を破らない仮想変位は、円周に沿う接線方向である。
半径方向と接線方向は直交する。したがって張力を \vec T、仮想変位を \delta\vec r とすると、
\vec T\cdot\delta\vec r=0
である。仮想仕事は力と仮想変位の内積だから、張力の仮想仕事は 0 である。
この事実が、解析力学で理想的な拘束力を直接書かずにすむ理由である。
7具体例:振り子のエネルギー
最下点を位置エネルギーの 0 とする。関係式 2 より、
T=\frac12m\ell^2\dot\theta^2
である。また最下点からの高さは
h=\ell(1-\cos\theta)
なので、
U=mg\ell(1-\cos\theta)
である。したがって
L=T-U=\frac12m\ell^2\dot\theta^2-mg\ell(1-\cos\theta)
となる。
この L を Euler-Lagrange 方程式へ入れると
m\ell^2\ddot\theta+mg\ell\sin\theta=0
が得られる。この方程式そのものの導出は、次の講義で作用の停留から証明する。
8見分け方
- 拘束条件が明示されていたら、自由度を先に数える。
- 直交座標が余分なら、角度や距離などの一般化座標へ変える。
- 張力や垂直抗力が拘束を保つだけなら、その方向が仮想変位に直交するかを確認する。
9どこまで成立するか
ここで扱ったのは、長さが固定された糸のような理想的な拘束である。摩擦や空気抵抗のように運動に沿ってエネルギーを失わせる力は、L=T-U だけでは十分に表せない。非保存力を扱うには、一般化力などの追加が必要になる。
10最終形
\boxed{x=\ell\sin\theta,\qquad y=-\ell\cos\theta}
\boxed{T=\frac12m\ell^2\dot\theta^2,\qquad U=mg\ell(1-\cos\theta)}
\boxed{L=T-U}
11一言
解析力学では、拘束条件を満たす一般化座標を選び、余分な反力を式から消した形で運動を書く。