物質波と不確定性関係
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1導入
この講義では、光が粒子のように振る舞うだけでなく、電子のような粒子も波のように振る舞うという見方を紹介する。
光電効果では、波だと思っていた光に粒子性が現れた。物質波では、粒子だと思っていた電子に波動性が現れる。この 2 つを合わせて、量子では粒子と波を古典的に切り分けられないと理解する。
2用語と定義
物質波とは、粒子に対応する波としての性質である。
ド・ブロイ波長とは、運動量 p の粒子に対応する波長
\boxed{\lambda=\frac{h}{p}}
である。
不確定性関係とは、位置の不確定さ \Delta x と運動量の不確定さ \Delta p が
\boxed{\Delta x\,\Delta p\gtrsim \hbar}
のような下限をもつ、という関係である。厳密には定義の取り方により係数が変わり、標準偏差を用いる量子力学では \Delta x\,\Delta p\ge \hbar/2 と書く。
3方針
物質波では、粒子の運動量から波長を求める。したがって最初に見るべき量は速さではなく運動量である。
電子が電圧で加速される問題では、まず電気的なエネルギー eV を運動エネルギーへ変換し、そこから p を求め、最後に \lambda=h/p を使う。
4関係式 1:加速電子のド・ブロイ波長
電子が電圧 V で静止から加速され、相対論的な補正を無視できるとする。このとき電子のド・ブロイ波長は
\boxed{\lambda=\frac{h}{\sqrt{2meV}}}
である。
4.1証明
電気量の大きさが e の電子が電位差 V で加速されると、電場から受け取るエネルギーは
eV
である。静止から出発し、失われるエネルギーがないとすれば、これが運動エネルギーになる。
\frac12mv^2=eV
非相対論的には p=mv なので、
p^2=m^2v^2=2meV
である。したがって
p=\sqrt{2meV}
である。ド・ブロイ関係 \lambda=h/p を使うと、
\lambda=\frac{h}{\sqrt{2meV}}
を得る。
5条件 2:ボーアの量子条件の定常波解釈
円軌道の円周に電子の物質波が整数回だけ収まるとすると、ボーアの量子条件
\boxed{mvr=n\hbar}
が得られる。
5.1証明
半径 r の円軌道の円周は
2\pi r
である。物質波が定常波として閉じるには、円周が波長の整数倍であればよい。
2\pi r=n\lambda
ド・ブロイ関係 \lambda=h/p を代入すると、
2\pi r=n\frac{h}{p}
である。p=mv とすると
2\pi r=n\frac{h}{mv}
である。両辺に mv を掛けて、
2\pi mvr=nh
を得る。\hbar=h/(2\pi) なので、
mvr=n\hbar
である。
6不確定性関係の意味
不確定性関係は、測定器が粗いから分からない、という主張ではない。量子状態そのものが、位置を鋭く定めるほど運動量の幅を広げる、という性質をもつ。
波で考えると、この理由は自然に見える。長く広がった正弦波は波長が明確で、したがって運動量も比較的明確である。しかし、その波は空間のどこにあるかを鋭く指定できない。逆に、狭い範囲に局在した波を作るには、多くの波長を重ねる必要があり、運動量の幅が広がる。
この講義では、不確定性関係を量子力学の基本原理として使う。厳密な証明には、波動関数とフーリエ解析が必要である。
7具体例:電子回折
電子を結晶へ当てると、回折や干渉の模様が現れる。回折は波に特有の現象なので、これは電子が物質波として振る舞うことを示す。
電子の運動量が大きいほど \lambda=h/p は小さくなる。そのため、高い電圧で加速した電子ほど波長は短い。
8見分け方
- 粒子の波長が問われたら、まず \lambda=h/p を使う。
- 電圧で加速された電子なら、まず eV=mv^2/2 で運動量を求める。
- 円軌道と定常波が出たら、2\pi r=n\lambda を立てる。
- 位置と運動量を同時に鋭く問われたら、不確定性関係を確認する。
9どこまで成立するか
\lambda=h/p は量子の基本関係である。加速電子の公式 \lambda=h/\sqrt{2meV} は、非相対論的で、初速を無視でき、エネルギー損失がない場合に使う。電圧が非常に大きい場合は、相対論的な補正が必要になる。
10最終形
\boxed{\lambda=\frac{h}{p}}
\boxed{\lambda=\frac{h}{\sqrt{2meV}}\quad\text{非相対論的な加速電子}}
\boxed{2\pi r=n\lambda\Rightarrow mvr=n\hbar}
\boxed{\Delta x\,\Delta p\gtrsim \hbar}
11一言
物質波は、粒子の運動量を波長へ翻訳する見方であり、ボーアの量子条件にも定常波としての意味を与える。