5厳密な説明
5.11. 反対称成分は二次形式に寄与しない
任意の実正方行列 A について
A=\frac{A+A^T}{2}+\frac{A-A^T}{2}
と分解できる。S=(A+A^T)/2 は対称行列、K=(A-A^T)/2 は反対称行列である。反対称行列については
x^TKx=0
であるため、
x^TAx=x^TSx
である。したがって二次形式では対称部分だけを考察すれば十分である。
5.22. 正定値性と固有値
A を実対称行列とする。このとき次は同値である。
\boxed{A\text{ は正定値}\iff \lambda_i>0\ (i=1,\dots,n)}
理由は直交対角化である。A=QDQ^T、y=Q^Tx とすると
x^TAx=\lambda_1y_1^2+\cdots+\lambda_ny_n^2
である。すべての \lambda_i が正なら、x\ne0 すなわち y\ne0 に対して x^TAx>0 である。逆に、ある \lambda_i<0 なら、その固有方向で値は負になる。
境界として、ある \lambda_i=0 の場合も確認しておく。このとき、その固有値に対応する単位固有ベクトルを q_i とすれば、q_i\ne0 であるにもかかわらず
q_i^TAq_i=0
となる。したがって A は正定値ではない。つまり「\lambda_i\ge 0」では正定値には不足であり、すべての固有値が正であること、すなわち \lambda_i>0 が必要である。
5.33. シルベスター判定法
実対称行列 A について、左上からの主小行列式がすべて正であることは、A が正定値であることと同値である。
\det A_1>0,\quad \det A_2>0,\quad \dots,\quad \det A_n>0
この判定法は計算上有用である。ただし、本質は固有値の符号による判定である。
5.44. シルベスターの慣性法則
実対称行列 A に対して、可逆な変数変換 x=Py を行うと
x^TAx=y^T(P^TAP)y
となる。このような変換を合同変換という。対角化によって二次形式を
y_1^2+\cdots+y_p^2-y_{p+1}^2-\cdots-y_{p+q}^2
のような形へ整理しても、正の平方項の個数 p、負の平方項の個数 q、0 の個数は変化しない。これをシルベスターの慣性法則という。この不変量により、二次形式の符号構造は座標選択に依存しない。