同次関数と同次式
mathalgebrahomogeneouspolynomiallecture
1導入
この講義では、式を「変数を同時に拡大したとき、全体がどう拡大するか」で分類する。
たとえば
P(x,y)=x^2+xy+y^2
では、x,y をどちらも \lambda 倍すると、
P(\lambda x,\lambda y)
=\lambda^2x^2+\lambda^2xy+\lambda^2y^2
=\lambda^2P(x,y)
となる。このように、入力を同時に拡大縮小したとき、値が一定の次数で拡大縮小する関数を、同次関数という。一般の関数では正の倍率だけを見ることが多く、多項式では任意のスカラーに対する性質として扱う。この違いは後で明確に分ける。
代数では、特に同次多項式が重要である。理由は、同次多項式では全ての項が同じ全次数を持つため、次数で式の構造を分解できるからである。
data/lecture/math/algebra/polynomials.lecture.n.md
2なぜこの見方を使うのか
多項式を扱うとき、項ごとの次数が混ざっていると、拡大したときの振る舞いが一様ではない。
たとえば
Q(x,y)=x^2+y+1
では、
Q(\lambda x,\lambda y)=\lambda^2x^2+\lambda y+1
となり、\lambda^2、\lambda、1 が混ざる。この式は一つの倍率では整理できない。
一方、同次多項式では、全ての項が同じ次数なので、
P(\lambda x)=\lambda^dP(x)
という一つの法則で動く。これにより、
- 項を次数ごとに分ける。
- 方程式 P=0 を方向の問題として見る。
- 非同次の多項式を、変数を 1 個増やして同次にする。
- 不等式で規模を固定し、比だけの問題に直す。
という操作が自然に現れる。
3用語と定義
3.1同次関数
V を実数のベクトル空間とする。関数 f:V\to\mathbb R が d 次の正同次関数であるとは、任意の \lambda>0 と x\in V について
f(\lambda x)=\lambda^d f(x)
が成立することである。
ふつう不等式や解析で同次関数というときは、この \lambda>0 に対する正同次性を使うことが多い。たとえば
f(x,y)=\sqrt{x^2+y^2}
は \lambda>0 なら f(\lambda x,\lambda y)=\lambda f(x,y) である。しかし \lambda<0 では f(\lambda x,\lambda y)=|\lambda|f(x,y) となるので、\lambda f(x,y) とは一致しない。
3.2同次式・同次多項式
多変数の多項式は、単項式を有限個足した式である。このページでは、各単項式に含まれる変数の指数の合計を見る。
単項式
x_1^{a_1}x_2^{a_2}\cdots x_n^{a_n}
の全次数は
a_1+a_2+\cdots+a_n
である。
多項式の全ての単項式が同じ全次数を持つとき、その多項式を同次多項式または同次式という。
同次多項式では、正の \lambda だけでなく、係数の体の任意のスカラー \lambda に対して
P(\lambda x)=\lambda^dP(x)
が成立する。このページでは、一般の関数では \lambda>0 の正同次性を、多項式では任意のスカラーに対する強い同次性を区別して使う。
たとえば
x^2+xy+y^2
は 2 次の同次多項式である。各項の全次数がすべて 2 だからである。
一方、
x^2+y+1
は同次多項式ではない。全次数 2、1、0 の項が混ざっているからである。
4注意:「同次」という言葉の違い
線型代数や微分方程式では、
Ax=0,\qquad Lx=0
のように右辺が 0 の方程式を同次方程式という。
このページの同次関数は、右辺が 0 かどうかではなく、
f(\lambda x)=\lambda^d f(x)
という拡大縮小に対する性質を指す。ただし、一般の関数では \lambda>0 の正同次性として扱い、同次多項式では任意のスカラーに対する同次性として扱う。同じ「同次」でも、方程式の文脈と関数・多項式の文脈を混同しない。
data/lecture/math/linear-operator/linear-operator-equation-basics.lecture.n.md
5命題 1:単項式は全次数の同次多項式である
5.1仮定
m(x_1,\ldots,x_n)=x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}
とし、d=a_1+\cdots+a_n とする。
5.2結論
m は d 次の同次多項式である。
5.3証明
任意の \lambda に対して、
\begin{aligned}
m(\lambda x_1,\ldots,\lambda x_n)
&=(\lambda x_1)^{a_1}\cdots(\lambda x_n)^{a_n}\\
&=\lambda^{a_1+\cdots+a_n}x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}\\
&=\lambda^d m(x_1,\ldots,x_n).
\end{aligned}\begin{aligned}
m(\lambda x_1,\ldots,\lambda x_n)
&=(\lambda x_1)^{a_1}\cdots(\lambda x_n)^{a_n}\\
&=\lambda^{a_1+\cdots+a_n}x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}\\
&=\lambda^d m(x_1,\ldots,x_n).
\end{aligned}
したがって m は d 次の同次多項式である。□
6命題 2:同次多項式は任意のスカラーで同次である
6.1仮定
P(x_1,\ldots,x_n) が d 次の同次多項式であるとする。
6.2結論
P(\lambda x_1,\ldots,\lambda x_n)=\lambda^dP(x_1,\ldots,x_n)
である。つまり、P は d 次の正同次関数であり、さらに任意のスカラーに対しても同じ式を満たす。
6.3証明
P は全次数 d の単項式の和である。そこで
P=\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha
と書く。ただし \alpha=(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)、x^\alpha=x_1^{\alpha_1}\cdots x_n^{\alpha_n}、|\alpha|=\alpha_1+\cdots+\alpha_n=d である。
命題 1 より、各単項式について
(\lambda x)^\alpha=\lambda^d x^\alpha
である。したがって
\begin{aligned}
P(\lambda x)
&=\sum_\alpha c_\alpha(\lambda x)^\alpha\\
&=\sum_\alpha c_\alpha\lambda^d x^\alpha\\
&=\lambda^d\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha\\
&=\lambda^d P(x).
\end{aligned}\begin{aligned}
P(\lambda x)
&=\sum_\alpha c_\alpha(\lambda x)^\alpha\\
&=\sum_\alpha c_\alpha\lambda^d x^\alpha\\
&=\lambda^d\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha\\
&=\lambda^d P(x).
\end{aligned}
よって P は d 次の同次多項式として、任意のスカラーに対して同次性を満たす。□
7定理 1:多項式は同次成分に一意に分解できる
7.1主張
任意の多項式 P(x_1,\ldots,x_n) は、
P=P_0+P_1+\cdots+P_d
と書ける。ここで P_k は k 次の同次多項式または 0 である。この分解は一意である。
7.2証明
P に現れる単項式を、全次数ごとに集める。全次数が k の項だけを集めたものを P_k と置けば、
P=P_0+P_1+\cdots+P_d
である。
一意性は、単項式の係数が一意に決まることから従う。同じ単項式は同じ全次数の成分にしか入らないため、別の分け方はできない。□
7.3例
P(x,y)=x^3+2x^2y+xy+5x-1
なら、
P_3=x^3+2x^2y,\qquad
P_2=xy,\qquad
P_1=5x,\qquad
P_0=-1
である。
この分解を見ると、多項式は「次数ごとの層」を持っていると考えられる。
8命題 3:同次性の判定
8.1仮定
係数の体を \mathbb R または \mathbb C とする。P を 0 でない多項式とする。
8.2結論
P が d 次の同次多項式であることと、
P(\lambda x)=\lambda^dP(x)
がすべての \lambda と x で成立することは同値である。
8.3証明
P が d 次の同次多項式なら、命題 2 より
P(\lambda x)=\lambda^dP(x)
である。
逆を示す。P を同次成分に分解して
P=P_0+P_1+\cdots+P_N
と書く。このとき
P(\lambda x)=P_0(x)+\lambda P_1(x)+\cdots+\lambda^N P_N(x)
である。仮定より
P(\lambda x)=\lambda^dP(x)
=\lambda^dP_0(x)+\lambda^dP_1(x)+\cdots+\lambda^dP_N(x)
である。
x を固定すると、これは \lambda についての多項式の等式である。\mathbb R や \mathbb C では、多項式が無限に多くの \lambda で一致するなら、係数が一致する。
したがって、任意の x について、k\ne d の係数に相当する値 P_k(x) は 0 である。これは P_k がすべての x で 0 になることを意味するので、P_k は 0 多項式である。
ここでは「\mathbb R や \mathbb C のような無限に多くの元を持つ体では、多項式がすべての点で 0 なら 0 多項式である」という基本事実を使っている。
よって P=P_d であり、P は d 次の同次多項式である。□
0 多項式は例外的で、どの次数の同次成分としても扱える。このページでは、次数を判定する議論では 0 でない多項式を対象にする。
9性質 1:和と積の規則
P,Q を同次多項式とする。
- P,Q が同じ次数なら、P+Q もその次数の同次多項式である。ただし 0 になる場合もある。
- P が r 次、Q が s 次なら、PQ は r+s 次の同次多項式である。
- 次数が違う同次多項式を足すと、一般には同次ではない。
9.1証明
P,Q が同じ d 次なら、
(P+Q)(\lambda x)=P(\lambda x)+Q(\lambda x)
=\lambda^dP(x)+\lambda^dQ(x)
=\lambda^d(P+Q)(x)
である。
また P が r 次、Q が s 次なら、
(PQ)(\lambda x)=P(\lambda x)Q(\lambda x)
=\lambda^rP(x)\lambda^sQ(x)
=\lambda^{r+s}P(x)Q(x)
である。したがって PQ は r+s 次の同次多項式である。
最後に、たとえば x^2+y は 2 次の項と 1 次の項を足したものであり、
(\lambda x)^2+\lambda y
は一つの \lambda^d で括れない。したがって一般には同次ではない。□
10同次方程式としての見方
P が d 次の同次多項式なら、
P(x)=0
の解は拡大縮小で保たれる。つまり、P(a)=0 なら、
P(\lambda a)=\lambda^dP(a)=0
である。
したがって、同次多項式の方程式は、点そのものよりも方向を見る問題になりやすい。たとえば
x^2-y^2=0
は
(x-y)(x+y)=0
なので、解は 2 本の直線 y=x、y=-x である。原点を通る直線が現れるのは、同次性により方向が保存されるからである。
11斉次化:非同次多項式を同次にする
非同次の多項式も、変数を 1 個増やすと同次にできる。この操作を斉次化という。
たとえば
p(x,y)=x^2+y+1
を考える。この多項式の最高次数は 2 である。そこで新しい変数 z を入れて、
p^h(x,y,z)=x^2+yz+z^2
とする。各項の全次数はすべて 2 なので、p^h は 2 次の同次多項式である。
しかも z=1 と置くと、
p^h(x,y,1)=x^2+y+1=p(x,y)
となる。つまり、斉次化は「元の多項式を、z=1 の平面に埋め込んだ同次多項式」と見られる。
11.1一般形
p(x_1,\ldots,x_n)=\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha
の最高次数を d とする。このとき
p^h(x_1,\ldots,x_n,z)
=\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha z^{d-|\alpha|}
と定義する。すると、各項の全次数は
|\alpha|+(d-|\alpha|)=d
なので、p^h は d 次の同次多項式である。
この操作は、射影幾何や代数幾何で基本になる。直感的には、z=0 の部分が「無限遠の方向」を記録する。
12Euler の同次関数定理
この節は微積分を使う補足である。\partial P/\partial x_i は、x_i だけを変数として微分し、ほかの変数を定数として扱う偏微分である。
P(x_1,\ldots,x_n) が d 次の同次多項式なら、
x_1\frac{\partial P}{\partial x_1}
+
\cdots+
x_n\frac{\partial P}{\partial x_n}
=dP
が成立する。
12.1証明
まず単項式
m=x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}
で確認する。d=a_1+\cdots+a_n とする。このとき
x_i\frac{\partial m}{\partial x_i}
=a_i m
である。したがって
\sum_{i=1}^n x_i\frac{\partial m}{\partial x_i}
=\sum_{i=1}^n a_i m
=dm
である。
同次多項式 P は全次数 d の単項式の和であり、微分と和は項ごとに計算できる。よって
\sum_{i=1}^n x_i\frac{\partial P}{\partial x_i}=dP
である。□
この定理は微積分にも現れるが、多項式の場合は各単項式の次数を数えているだけである。
data/lecture/math/multivariable-calculus/tangent-planes-chain-rule-and-jacobian.lecture.n.md
13具体例で整理
| 式 | 判定 | 理由 |
| x+y | 1 次の同次 | 各項が 1 次 |
| x^2+xy+y^2 | 2 次の同次 | 各項が 2 次 |
| x^2+y | 同次でない | 2 次と 1 次が混ざる |
| x^3-3xyz+y^3 | 3 次の同次 | x^3,xyz,y^3 がすべて 3 次 |
| \sqrt{x^2+y^2} | 1 次の正同次関数 | 多項式ではないが、\lambda>0 の拡大縮小で 1 次 |
14どこまで成立するか
正同次関数は多項式に限らない。たとえば
f(x,y)=\sqrt{x^2+y^2}
は 1 次の正同次関数である。しかし代数で主に扱うのは、同次多項式と同次成分である。
また、有限体のように \lambda の種類が有限しかない場合、P(\lambda x)=\lambda^dP(x) から多項式の形を判定するには注意が必要である。このページの同値判定は、\mathbb R や \mathbb C のような無限に多くのスカラーを持つ体で考えている。
16一言でいうと
正同次関数は、入力を正の \lambda 倍にすると値が \lambda^d 倍になる関数である。同次多項式は、全ての項が同じ全次数を持つ多項式である。代数では、この性質により次数ごとの分解、方向としての解、斉次化が自然に現れる。