同次関数と不等式
mathalgebrahomogeneousinequalitylecture
1導入
この講義では、同次性を不等式の計算技法として使うことを説明する。
不等式で複数の変数が出ると、どの変数を基準にすればよいかが見えにくい。しかし両辺が同じ次数の同次式なら、全ての変数を正の倍率で同時に拡大しても不等式の真偽は変わらない。
そのため、同次不等式では
x+y=1,\qquad y=1,\qquad x^2+y^2=1
のように規模を固定してよい場合がある。この操作を正規化という。
ただし、これは暗黙の裏技ではない。同次性があり、さらに固定したい量が 0 でなく正の倍率で目標の値へ到達できるから正規化できる。同次性がない不等式や、0 になる量を基準にした正規化では、勝手に規模を固定してはいけない。
data/lecture/math/algebra/homogeneous-functions-and-expressions.lecture.n.md
2なぜ同次性が不等式で効くのか
たとえば
x^2+y^2\ge 2xy
を考える。両辺はどちらも 2 次である。x,y を同時に \lambda 倍すると、
(\lambda x)^2+(\lambda y)^2
=\lambda^2(x^2+y^2)
かつ
2(\lambda x)(\lambda y)=\lambda^2(2xy)
である。両辺が同じ \lambda^2 倍になるので、\lambda>0 なら大小関係は変わらない。
このように、同次不等式では大きさそのものよりも、比や方向が本質になる。
3用語と定義
3.1同次不等式
F(x),G(x) が同じ d 次の正同次関数であるとき、
F(x)\le G(x)
の形の不等式を、このページでは d 次の同次不等式と呼ぶ。
この呼び方で大切なのは、左辺と右辺の次数が同じであることだ。次数が違うと、拡大縮小で片方だけがより速く大きくなるため、正規化は使えない。
4命題 1:同次不等式は正の拡大縮小で真偽が変わらない
4.1仮定
F,G が d 次の正同次関数であるとする。つまり、\lambda>0 について
F(\lambda x)=\lambda^dF(x),
\qquad
G(\lambda x)=\lambda^dG(x)
が成立するとする。
4.2結論
F(x)\le G(x)
は、\lambda>0 に対して
F(\lambda x)\le G(\lambda x)
と同値である。
4.3証明
同次性より、
F(\lambda x)\le G(\lambda x)
は
\lambda^dF(x)\le \lambda^dG(x)
と同じである。\lambda>0 なので \lambda^d>0 である。したがって正の数 \lambda^d で割っても不等号の向きは変わらず、
F(x)\le G(x)
を得る。逆も同じ計算である。□
この命題により、同次不等式では正の拡大縮小で真偽が変わらないことが分かる。
ただし、ここから「好きな正規化をしてよい」と結論してはいけない。正規化には、固定したい量が 0 でなく、さらに正の倍率でその値へ到達できることが必要である。
5命題 2:正規化できる条件
5.1仮定
1 次の正同次関数 S(x) があり、考えている範囲で S(x)>0 とする。このとき、x\ne0 に対して
\lambda=\frac{1}{S(x)}
と置く。
5.2結論
\lambda>0 であり、
S(\lambda x)=\lambda S(x)=1
である。したがって、この範囲では S(x)=1 に正規化してよい。
5.3証明
仮定より S(x)>0 だから、\lambda=1/S(x) は正である。また S は 1 次の正同次関数なので、
S(\lambda x)=\lambda S(x)
である。ここに \lambda=1/S(x) を代入すると、
S(\lambda x)=\frac{1}{S(x)}S(x)=1
となる。□
たとえば x+y>0 の範囲では x+y=1 に正規化できる。y>0 の範囲では y=1 に正規化できる。y=0 や x+y=0 の場合は、その正規化では扱えないので別に確認する。
6命題 3:2 変数の同次不等式は比に帰着できる
6.1仮定
F(x,y),G(x,y) が同じ d 次の正同次関数であり、y>0 とする。
6.2結論
F(x,y)\le G(x,y)
は、t=x/y と置くと
F(t,1)\le G(t,1)
と同値である。
6.3証明
y>0 なので、\lambda=1/y と置ける。命題 1 と命題 2 より
F(x,y)\le G(x,y)
は
F\left(\frac{x}{y},1\right)\le
G\left(\frac{x}{y},1\right)
と同値である。t=x/y と置けば、
F(t,1)\le G(t,1)
である。□
この命題を使うと、2 変数の同次不等式を 1 変数の不等式へ落とせる。
7例 1:x,y\ge0 で x^2+y^2\ge2xy
不等式
x^2+y^2\ge2xy
は 2 次の同次不等式である。ここでは x,y\ge0 とする。
y>0 の場合、t=x/y と置くと、
t^2+1\ge2t
を示せばよい。これは
t^2-2t+1=(t-1)^2\ge0
である。y=0 の場合は、もとの式が x^2\ge0 となり明らかである。
この解法を思いつく理由は、両辺が同じ次数であり、y>0 なら y=1 に正規化して比だけを見ればよいからである。
8命題 4:制約 S(x)=1 の下で多項式を同次化できる
8.1状況
非同次の不等式でも、
x+y=1
のような制約があるときは、その制約の上でだけ同じ値を持つ同次式へ直せることがある。不等式 P\le Q では、P-Q\le0 と見るか、両辺を共通の次数へ同次化する。
8.2主張
S を 1 次の同次多項式とし、制約 S(x)=1 の下で不等式を考える。
多項式
P=P_0+P_1+\cdots+P_d
を同次成分に分解する。このとき、制約 S(x)=1 を満たす点では
P(x)=P_0(x)S(x)^d+P_1(x)S(x)^{d-1}+\cdots+P_d(x)
である。右辺は d 次の同次式である。
8.3証明
S(x)=1 なので、任意の k について
S(x)^k=1
である。したがって
P_k(x)=P_k(x)S(x)^{d-k}
である。これを k=0,\ldots,d で足すと主張が得られる。
また、P_k は k 次、S^{d-k} は d-k 次なので、積 P_kS^{d-k} は d 次である。よって右辺は d 次の同次式である。□
この命題は、制約の外でも同じ関数になると主張しているわけではない。制約 S(x)=1 を満たす点でだけ、元の多項式と同次化した式が一致する、という主張である。
9例 2:x+y=1 の下で xy\le1/4
制約
x+y=1,\qquad x\ge0,\ y\ge0
の下で
xy\le\frac14
を示したいとする。
この不等式には定数 1/4 があるので、そのままでは同次ではない。しかし制約 x+y=1 があるので、1 を x+y に置き換えられる。
xy\le\frac14
は
4xy\le1
であり、1=(x+y)^2 だから、
4xy\le(x+y)^2
を示せばよい。これは
(x+y)^2-4xy=x^2-2xy+y^2=(x-y)^2\ge0
である。
この変形は、定数を適当に置き換えたのではない。制約 x+y=1 があるため、1 と x+y が同じ値を持つ。その情報を使って同次化したのである。
10例 3:\dfrac{x^2+y^2}{x+y} の最小値
x>0,\ y>0 とし、
E=\frac{x^2+y^2}{x+y}
を考える。これは分子が 2 次、分母が 1 次なので、全体としては 1 次の正同次関数である。つまり
E(\lambda x,\lambda y)=\lambda E(x,y)
である。
そのため、制約なしに「最小値」を求めると問題が壊れる。実際、\lambda\to0 とすると E(\lambda x,\lambda y)\to0 である。
最小値を意味ある形で問うには、たとえば
x+y=1
のように規模を固定する必要がある。この制約の下では
E=x^2+y^2
なので、
x^2+y^2=(x+y)^2-2xy=1-2xy
である。xy\le1/4 より、
x^2+y^2\ge1-\frac12=\frac12
である。等号は x=y=1/2 で成立する。
この例は、正同次関数では「規模を固定しないと最大最小が意味を持たないことがある」ことを示している。
11よくある誤り
11.11. 次数が違うのに正規化する
x^2+y^2\ge x+y
は両辺の次数が違う。左辺は 2 次、右辺は 1 次である。したがって、同次不等式として正規化してはいけない。
11.22. 0 になる量で割る
y=1 に正規化するには、y\ne0 が必要である。y=0 の場合を別に確認しないと、解を落とすことがある。
12一言でいうと
同次不等式では、全体の大きさではなく比や方向が本質になる。だから正規化して変数を減らせる。制約がある非同次不等式では、その制約を使って同次化できることがある。