ノルムと三角不等式
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導入
この講義で重要なのは、ノルムは「長さ」を抽象化した関数であり、三角不等式によって距離としての振舞いが保証されるということである。
内積から \|v\|=\sqrt{\langle v,v\rangle} と定義するだけでは、まだ「長さ」として十分かどうかは明確でない。長さなら、0 以上であり、スカラー倍で比例し、2 つのベクトルを足した長さが各長さの和を超えない必要がある。この最後の条件が三角不等式である。
用語と定義
ノルム とは、ベクトル空間 V から非負実数への関数 \|\cdot\| であり、任意の u,v\in V とスカラー a について、次を満たすものである。
\|v\|\ge 0,\qquad \|v\|=0\iff v=0
\|av\|=|a|\,\|v\|
\|u+v\|\le \|u\|+\|v\|
三角不等式 とは、上の 3 番目の不等式である。
距離 は、ノルムから d(u,v)=\|u-v\| と定義できる。
直感的な説明
三角不等式は、「迂回経路の距離は、直行する距離より短くならない」という幾何学的な事実の抽象形である。
ベクトルでは、u だけ移動し、つぎに v だけ移動する経路と、u+v へ一度に移動する経路を比較する。直接の移動は寄り道より長くならない。これが \|u+v\|\le\|u\|+\|v\| である。
厳密な説明
1. 内積からノルムを定義する
内積空間では
\|v\|=\sqrt{\langle v,v\rangle}
と定義する。正定値性により \langle v,v\rangle\ge0 であり、\langle v,v\rangle=0 は v=0 と同値である。したがって非負性と零ベクトルの判定は成立する。
スカラー a については、
\|av\|^2=\langle av,av\rangle=|a|^2\langle v,v\rangle
であるから、
\|av\|=|a|\,\|v\|
を得る。
2. 三角不等式を導出する
実内積空間では、
\|u+v\|^2=\langle u+v,u+v\rangle
である。展開すると、
\|u+v\|^2=\|u\|^2+2\langle u,v\rangle+\|v\|^2
コーシー・シュワルツの不等式より \langle u,v\rangle\le |\langle u,v\rangle|\le \|u\|\|v\| である。したがって
\|u+v\|^2\le \|u\|^2+2\|u\|\|v\|+\|v\|^2=(\|u\|+\|v\|)^2
両辺は非負なので、平方根を適用して
\|u+v\|\le \|u\|+\|v\|
を得る。
複素内積空間では、展開に 2\operatorname{Re}\langle u,v\rangle が現れるが、\operatorname{Re}\langle u,v\rangle\le |\langle u,v\rangle| により同様に証明できる。
具体例
\mathbb R^2 の標準内積では、
\|(x,y)\|=\sqrt{x^2+y^2}
である。u=(1,0)、v=(0,1) とすると、
\|u+v\|=\sqrt{2},\qquad \|u\|+\|v\|=2
であり、\sqrt{2}\le2 が三角不等式に対応する。
別の観点
ノルムが与えられると、まず
d(u,v)=\|u-v\|
によって距離が定義される。非負性、対称性、三角不等式により、これは距離関数として機能する。
解析的には、ノルムは極限や収束を定義するための道具である。d(v_n,v)=\|v_n-v\|\to0 と記述できるとき、ベクトル列 v_n が v に近づくことを意味する。
幾何的には、ノルムは原点からの距離である。三角不等式は、この距離が幾何学的な直観と整合することを保証する。
判定基準
- 長さ、距離、収束、誤差を対象にするなら、ノルムを確認する。
- 内積が与えられているなら、まず \|v\|=\sqrt{\langle v,v\rangle} を構成する。
- 不等式の証明では、コーシー・シュワルツの不等式から三角不等式へ接続する。
どこまで成り立つか
内積から得られるノルムは必ず三角不等式を満たす。一方で、すべてのノルムが内積から生じるわけではない。たとえば \mathbb R^n の \ell^1 ノルムや \ell^\infty ノルムは重要だが、一般には標準内積から直接導出されるものではない。
最終形
\boxed{\|v\|=\sqrt{\langle v,v\rangle}}
\boxed{\|u+v\|\le \|u\|+\|v\|}
\boxed{d(u,v)=\|u-v\|}
一言でいうと
- ノルムは長さを抽象化した関数であり、三角不等式により距離として作用する。