勾配・発散・回転
mathvector-calculusgrad-div-curllecture
1導入
この講義では、grad・div・curl を記号操作ではなく、場の局所的な変化を測定する三種類の演算子として確認する。
2用語と定義
U\subset\mathbb R^n を開集合とし、以下では Cartesian 座標と標準内積を使う。C^1 スカラー場 f:U\to\mathbb R の勾配を
\nabla f=\left(\frac{\partial f}{\partial x_1},\ldots,\frac{\partial f}{\partial x_n}\right)
と定義する。これは U 上のベクトル場である。
C^1 ベクトル場 \mathbf F=(F_1,\ldots,F_n):U\to\mathbb R^n の発散を
\nabla\cdot\mathbf F=\sum_{i=1}^n\frac{\partial F_i}{\partial x_i}
と定義する。これは U 上のスカラー場であり、各成分が対応する座標方向へどう変化するかを合計する。
n=3 では、C^1 ベクトル場 \mathbf F=(F_1,F_2,F_3) の回転を
\nabla\times\mathbf F=
\left(
\frac{\partial F_3}{\partial x_2}-\frac{\partial F_2}{\partial x_3},
\frac{\partial F_1}{\partial x_3}-\frac{\partial F_3}{\partial x_1},
\frac{\partial F_2}{\partial x_1}-\frac{\partial F_1}{\partial x_2}
\right)
と定義する。これは局所的な循環軸と強さを表すベクトル場である。n=2 では \mathbf F=(P,Q) に対し
\operatorname{curl}_{2D}\mathbf F=\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}
というスカラーを使う。これは (P,Q,0) を三次元へ埋め込んだときの curl の z 成分である。一般の \mathbb R^n では curl をこのベクトル公式のまま定義せず、微分形式などを使って拡張する。
3方針
単位ベクトル \mathbf u 方向の方向微分は D_{\mathbf u}f=\nabla f\cdot\mathbf u である。Cauchy--Schwarz の不等式より D_{\mathbf u}f\le\|\nabla f\| であり、\nabla f\ne\mathbf0 なら最大値は \mathbf u=\nabla f/\|\nabla f\| で達成される。\nabla f=\mathbf0 ならすべての方向微分が 0 で、最大増加方向は 1 つに決まらない。発散は小領域からの正味流出を体積で割った極限、回転は向きを定めた微小閉曲線に沿う循環を面積で割った極限として捉える。この積分表示の厳密な条件は後続講義で扱う。
4具体例
f(x,y)=x^2+y^2 なら
\nabla f=(2x,2y)
である。勾配は原点から外向きに伸び、値が増加する方向を示す。
\boldsymbol{F}(x,y)=(-y,x) では、\operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol F=1-(-1)=2>0 である。正の向きを反時計回りとする平面の循環を持つ基本例である。
5成分公式の意味
\nabla f=(f_x,f_y,f_z) は三次元で各座標方向の増加率を 1 つのベクトルに集約したものである。\nabla\cdot\boldsymbol{F} は、各成分の対応方向への変化率を足し合わせる。\nabla\times\boldsymbol{F} は、座標平面ごとの向き付けられた局所循環を組み合わせる。
発散の式は、\mathbf p を中心とする小球 B_r とその外向き単位法線 \mathbf n を使って
\nabla\cdot\mathbf F(\mathbf p)=\lim_{r\to0}\frac{1}{|B_r|}\int_{\partial B_r}\mathbf F\cdot\mathbf n\,dS
と表せる。二次元 curl も、\mathbf p を中心とする円板 D_r の境界を反時計回りに向き付ければ
\operatorname{curl}_{2D}\mathbf F(\mathbf p)=\lim_{r\to0}\frac{1}{|D_r|}\oint_{\partial D_r}\mathbf F\cdot d\mathbf r
と表せる。三次元では単位法線 \mathbf n と整合する向きの微小円板を使うと、この極限が \mathbf n\cdot(\nabla\times\mathbf F) になる。厳密な積分定理は後続講義で扱う。
6比較例
- 放射状場 \boldsymbol{F}(x,y)=(x,y) は原点から外向きに広がるため、発散が正である。
- 回転場 \boldsymbol{F}(x,y)=(-y,x) は湧き出しより循環を持つ。
- \boldsymbol{F}(x,y,z)=(-y,x,0) は divergence が 0 であるが curl は 0 ではない。
- \mathbb R^2\setminus\{\mathbf0\} 上の \boldsymbol{F}=(-y/(x^2+y^2),x/(x^2+y^2)) は定義域の全点で C^\infty かつ \operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol F=0 であるが、原点を囲む閉曲線の線積分は 0 にならない。局所微分だけでは大域的な穴を検出できないことを次講義で確認する。
7具体計算 1: 放射状場
\boldsymbol{F}(x,y)=(x,y) では
\nabla\cdot\boldsymbol{F}=1+1=2,\qquad
\operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol{F}=0
である。原点から外向きに流出するが、局所的な回転はない。
8具体計算 2: 回転場
\boldsymbol{G}(x,y)=(-y,x) では
\nabla\cdot\boldsymbol{G}=0,\qquad
\operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol{G}=2
である。湧き出しはないが、反時計回りの循環を持つ。同じ矢印図でも、外向きの広がりと回転は別の量で測定する。
9単位の確認
速度場 \boldsymbol{v} の単位を \mathrm{m/s} とすると、divergence の単位は 1/\mathrm{s} である。単位体積あたりの相対的な膨張率として解釈できる。curl も 1/\mathrm{s} の単位を持つ。ただし剛体回転 \boldsymbol v=\boldsymbol\Omega\times\mathbf x では \nabla\times\boldsymbol v=2\boldsymbol\Omega であり、curl は角速度そのものではなく、その 2 倍である。
10積分への接続
curl は線積分の循環と結びつき、divergence は面積分の流束と結びつく。この接続を定理として述べるのが Green・Gauss・Stokes の定理である。
11どこまで成立するか
本講義の成分公式は C^1 の場に対して各点で定義できる。不連続や特異点を含む場合は、その点で古典的な微分が定義できるかを確認する。分布の意味での grad・div・curl は別の拡張であり、本講義では扱わない。