スカラー場とベクトル場
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1導入
この講義では、空間の各点に何を対応させるかにより、スカラー場とベクトル場を区別する。
2用語と定義
U\subset\mathbb R^n を開集合とする。スカラー場 は、各点に数値を対応させる関数 f:U\to\mathbb R である。温度や圧力が典型例である。
ベクトル場 は、各点にベクトルを対応させる関数 \mathbf F:U\to\mathbb R^n である。速度場や力場が典型例である。
場であること自体は連続性を仮定しない。スカラー場では関数が連続なら連続スカラー場、C^1 なら C^1 スカラー場という。ベクトル場では各成分が連続なら連続ベクトル場、各成分が C^1 なら C^1 ベクトル場という。すべての階数の偏導関数が存在して連続な場を C^\infty と書く。後続の grad・div・curl では C^1 の場を扱う。
3方針
C^1 スカラー場では、勾配が 0 でない点で「どの方向に最も増加するか」を確認する。C^1 ベクトル場では「どれだけ流入流出するか」「どれだけ回転するか」を確認する。この区別が勾配・発散・回転の入口になる。
4具体例
T(x,y,z)=x^2+y^2+z^2 はスカラー場であり、各点に 1 つの数を対応させる。
\boldsymbol{F}(x,y)=(-y,x) はベクトル場であり、原点以外の各点に原点中心の円の接線方向を向くベクトルを対応させる。原点では \boldsymbol F(0,0)=\mathbf0 である。これらの例は多項式成分を持つので C^\infty である。
5場の例
温度場はスカラー場であり、各点の温度を返す。高度場もスカラー場であり、地形の高さを返す。速度場はベクトル場であり、流体の各点での速度を返す。電場もベクトル場であり、単位電荷に働く力を返す。
次の表の gradient・divergence・curl・flux・circulation は後続講義で定義する演算の予告である。
| 場 | 値 | 単位の例 | 次の演算 |
| 温度場 T(x,y,z) | スカラー | \mathrm{K} | gradient |
| 圧力場 p(x,y,z) | スカラー | \mathrm{Pa} | gradient |
| 速度場 \boldsymbol{v}(x,y,z) | ベクトル | \mathrm{m/s} | divergence, curl |
| 電場 \boldsymbol{E}(x,y,z) | ベクトル | \mathrm{N/C} | flux, circulation |
単位を付けると、演算の意味も明確になる。たとえば次講義で定義する温度勾配 \nabla T の単位は \mathrm{K/m} であり、一メートルあたりの温度変化を表す。
6等位面と流線
スカラー場 f:U\to\mathbb R に対して
L_c:=\{\mathbf x\in U:f(\mathbf x)=c\}
を等位集合という。f\in C^1(U) とし、\mathbf x_0\in L_c で少なくとも 1 つの偏導関数が 0 でないとする。陰関数定理により L_c は \mathbf x_0 の近くで (n-1) 次元の C^1 超曲面になる。この条件は、次講義で定義する勾配を使えば \nabla f(\mathbf x_0)\ne\mathbf0 と書ける。陰関数定理の証明は多変数微積分の発展内容であり、ここでは等位面になるための条件として用いる。臨界点では、点へ退化したり面でなくなったりすることがある。
ここでは U\subset\mathbb R^n を開集合とする。\mathbf F:U\to\mathbb R^n に対し、C^1 曲線 \boldsymbol\gamma:J\to U が
\boldsymbol\gamma'(t)=\mathbf F(\boldsymbol\gamma(t))
を満たすとき、その像を積分曲線または流線という。\mathbf F(\mathbf p)=\mathbf0 なら \boldsymbol\gamma(t)=\mathbf p は定常な積分曲線である。\mathbf p\in U とする。\mathbf F が連続なら \mathbf p を通る局所解が少なくとも 1 つ存在し、局所 Lipschitz 連続ならその局所解は一意である。
二次元のスカラー場 T(x,y)=x^2+y^2 では、c>0 の等位集合は半径 \sqrt{c} の円、c=0 では原点 1 点、c<0 では空集合である。三次元でも c>0 のとき球面、c=0 のとき原点 1 点になる。一方、\boldsymbol F=(-y,x) では r>0 に対して
\boldsymbol\gamma(t)=r(\cos(t+\theta_0),\sin(t+\theta_0))
が反時計回りの円形の積分曲線となり、原点は定常点である。等位集合は値が一定の集合、積分曲線は場に沿う軌道であり、役割は異なる。
7比較例
\boldsymbol{F}(x,y)=(1,0) は全点で右向きの一定速度場であり、積分曲線は水平線になる。\boldsymbol{G}(x,y)=(x,y) では t\in\mathbb R に対して \boldsymbol\gamma(t)=e^t\mathbf p であり、\mathbf p\ne\mathbf0 の軌道像は原点を除く半直線、原点は定常点である。divergence はベクトルの大きさだけでなく、各成分が対応する座標方向へどう変化するかで決まり、矢印の長さだけからは判断できない。
9よくある誤り
- スカラー場とベクトル場を値の型で区別しない。
- 座標表示を場そのものと同一視する。
- 図示された矢印の長さだけを確認し、方向の変化を無視する。