ベクトルとは何か
mathvectorlinear-algebralecture
導入
この講義で重要なのは、ベクトルを「矢印」という図形的な像だけに限定せず、和とスカラー倍を受ける対象として理解することである。
矢印の説明は直感として有効である。しかし線形代数では、数の列、関数、多項式、行列もベクトルとして扱う。共通するのは「加法」と「スカラー倍」である。
用語と定義
ベクトル とは、加法とスカラー倍を受け、その結果が同じ種類の対象として残るものである。
スカラー とは、ベクトルに掛ける数である。実数ベクトルではスカラーは実数であり、複素ベクトルではスカラーは複素数である。
成分 とは、基準となる座標軸や基底に沿ってベクトルを数で表示したものである。
方針
まず図形の矢印としてベクトルを確認し、つぎに成分ベクトルとして計算する。最後に、「ベクトルとは特定の形ではなく、演算を持つ対象である」という抽象化へ戻る。
直感的な説明
平面の矢印では、ベクトルは「どれだけ移動するか」を表現する。2 本のベクトルを加えることは、移動を連続して実行することである。スカラー倍は、同じ方向の移動量を伸縮することである。
成分で表示すると、同じ操作は数の列の計算になる。たとえば \begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix} は、第一成分が 2、第二成分が 1 のベクトルである。
厳密な説明
\mathbb R^n のベクトルは
v=\begin{pmatrix}v_1\\v_2\\ \vdots\\v_n\end{pmatrix}
という順序付きの数列である。2 つのベクトルの和とスカラー倍は
u+v=\begin{pmatrix}u_1+v_1\\ \vdots\\u_n+v_n\end{pmatrix},
\qquad
cv=\begin{pmatrix}cv_1\\ \vdots\\cv_n\end{pmatrix}
で定義する。この定義により、ベクトルを成分ごとに計算できる。
抽象的には、ベクトルは必ずしも矢印ではない。多項式 1+x と x^2 を加えることもでき、実数倍もできるため、多項式もベクトル空間の元として扱える。
具体例
u=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix},
\qquad
v=\begin{pmatrix}3\\-1\end{pmatrix}
なら、
u+v=\begin{pmatrix}4\\1\end{pmatrix},
\qquad
2u=\begin{pmatrix}2\\4\end{pmatrix}
である。矢印としては移動の合成であり、成分としては座標ごとの加法である。
よくある誤解
- ベクトルは矢印に限定されない。矢印は直感的模型である。
- ベクトルと点は同一ではない。点は場所であり、ベクトルは移動量や差である。
- 成分はベクトルそのものではなく、基準を選択した後の表示である。
どこまで成り立つか
この講義では \mathbb R^n の成分ベクトルを中心にした。複素ベクトルでは成分が複素数になる。関数や多項式も、和とスカラー倍が定義される限り、ベクトルとして扱える。
最終形
\boxed{\text{ベクトルは、和とスカラー倍を受ける対象である}}
\boxed{\mathbb R^n\text{ のベクトルは順序付きの数の列である}}
一言でいうと
- ベクトルは矢印として観察できるが、本質は加法とスカラー倍で操作できる対象である。