直線運動と落下運動
導入
このページの核心は、位置・速度・加速度を別々の量として区別し、加速度から速度、速度から位置へ進む三段構造を崩さないことである。等加速度運動の三公式は便利であるが、公式暗記だけでは符号ミス、原点ミス、時間消去の使い分けの失敗が起こりやすい。したがって、このページでは公式を紹介にとどめず、軸設定 → 微分関係 → 積分による導出 → 代表例の順で整理する。
このページで解けるようになること
- 等加速度運動の三公式の導出
- 自由落下、鉛直投げ上げ、鉛直投げ下ろしの符号整理
- 時間を含む式と、時間を消去した式の使い分け
- x-t、v-t、a-t グラフの読み取り
何を解くページか
本線は 1 次元の等加速度運動である。したがって扱う標準形は
a=\text{const}
である。ここから
a_x,\qquad v_x,\qquad r_x
の三段を順に追う。
方針
このページで最初に行うべきことは、式を書く前に軸を決めることである。落下問題では、上向きを正にしても下向きを正にしてもよい。ただし、いったん決めたら
- 位置 x
- 速度 v
- 加速度 a
のすべてをその符号規約で統一する必要がある。そのうえで
a_x=\frac{dv_x}{dt},\qquad v_x=\frac{dr_x}{dt}
を使って、a_x \Rightarrow v_x \Rightarrow r_x の順に進む。
まず軸を決める
落下運動で最も重要なのは、g の符号を問題ごとに暗記しないことである。先に正方向を決め、それに合わせて
- 上向きを正にしたなら a=-g
- 下向きを正にしたなら a=+g
と置く。したがって、g は常に正の定数として持ち、符号は加速度 a の前に付ける。
用語と定義
位置、速度、加速度
v_x=\frac{dr_x}{dt},\qquad a_x=\frac{dv_x}{dt}
である。位置 r_x は「どこにいるか」、速度 v_x は「どちらへどれだけ速く動くか」、加速度 a_x は「速度がどう変わるか」を表す。
速度と速さの区別
速度は符号つきであり、速さはその大きさである。たとえば上向きを正にした投げ上げでは、落下中の速度は負でありえても、速さは正である。
等加速度運動
加速度が時間によらず一定である運動である。地表近くで空気抵抗を無視した落下はその代表例である。
導出または基本式
1. 速度の式
a=\text{const} を積分すると
v=v_0+at
を得る。
2. 位置の式
さらに v=\dfrac{dx}{dt} を積分すると
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2} at^2
を得る。
3. 時間を消去した式
v=v_0+at から t=\dfrac{v-v_0}{a} を消去すると
v^2-v_0^2=2a(x-x_0)
を得る。この式は、時間を使いたくないときに選ぶ式である。
三段セットで整理する
等加速度運動では、必ず次の三段で整理すると崩れにくい。
\begin{cases}
a_x=a
v_x=v_0+at
r_x=x_0+v_0t+\frac{1}{2} at^2
\end{cases}\begin{cases}
a_x=a
v_x=v_0+at
r_x=x_0+v_0t+\frac{1}{2} at^2
\end{cases}
問題ごとに変わるのは、a の符号、v_0、x_0 のみである。
グラフでの読み方
a-t グラフ
等加速度運動では水平線になる。値そのものが加速度であり、面積は速度の変化量
\int adt=v-v_0
を与える。
v-t グラフ
傾きが加速度である。面積は変位
\int vdt=x-x_0
を与える。
x-t グラフ
傾きが速度であり、曲率の向きが加速度の符号と対応する。等加速度運動では放物線になる。
具体例 1: 自由落下
上向きを正とし、初速度 0、初期位置 y_0 から落とす。このとき
a=-g,\qquad v_0=0
であるから
v=-gt
y=y_0-\frac{1}{2} gt^2
となる。
具体例 2: 鉛直投げ上げ
上向きを正とし、初速度 v_0>0 で投げ上げる。
a=-g
より
v=v_0-gt,\qquad y=y_0+v_0t-\frac{1}{2} gt^2
最高点では v=0 であるから
t_{\max}=\frac{v_0}{g}
を得る。さらに時間を消去した式から
0-v_0^2=2(-g)(y_{\max}-y_0)
ゆえに
y_{\max}-y_0=\frac{v_0^2}{2g}
を得る。
具体例 3: 鉛直投げ下ろし
上向きを正とし、下向きに速さ u で投げ下ろすなら
v_0=-u,\qquad a=-g
である。したがって
v=-(u+gt)
となる。ここで速度が負だからといって、速さが負になるわけではない。速さは u+gt である。
三つの代表例の比較
| 場面 | 初速度 | 加速度 | 速度の式 |
| 自由落下 | 0 | -g | v=-gt |
| 鉛直投げ上げ | +v_0 | -g | v=v_0-gt |
| 鉛直投げ下ろし | -u | -g | v=-(u+gt) |
この表から分かる通り、違いの本質は初速度だけであり、重力加速度の扱いは共通である。
見分け方
- 時間 t が与えられる、または時刻を求めたい → v=v_0+at、x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2
- 時間を使わず位置と速度を直接結びたい → v^2-v_0^2=2a(x-x_0)
- 最高点や折返し点が出る → まず v=0 を使う
初期条件の置き方
等加速度運動で最初に決めるのは、x_0、v_0、a の 3 つである。
| 量 | 意味 | 決め方 |
| x_0 | 時刻 t=0 の位置 | 原点をどこに置くかで決まる |
| v_0 | 時刻 t=0 の速度 | 正方向と同じなら正、逆なら負 |
| a | 加速度 | 力や重力の向きから符号つきで決める |
途中の時刻を新しい t=0 に取り直してもよい。ただし、その瞬間の位置と速度を新しい x_0、v_0 として置き直す必要がある。
時間の原点を取り直す例
鉛直投げ上げで最高点から落下を考えるとき、投げ上げた瞬間を t=0 にしたままでもよいが、最高点を新しい t'=0 に取り直すと式が簡単になる。
最高点では v_0'=0 であり、上向きを正にすれば
y=y_{\max}-\frac{1}{2} gt'^2,\qquad v=-gt'
と書ける。同じ運動を別の時刻原点で見ているだけなので、物理は変わらない。変わるのは x_0、v_0、t の名前だけである。
グラフから式を読む問題
v-t グラフが与えられたとき、傾きは加速度、面積は変位である。直線のグラフなら等加速度運動であり、面積は台形として計算できる。
x-x_0=\frac{v_0+v}{2}t
これは等加速度運動の平均速度
\bar{v}=\frac{v_0+v}{2}
を使った式である。公式として覚えるより、v-t グラフの面積と理解すると、途中で速度が負になる問題でも符号を扱いやすい。
相対運動の見方
2 つの物体 A、B の間隔や追いつき時刻を問う問題では、相対位置
x_{\mathrm{rel}}=x_A-x_B
を使うと整理しやすい。相対速度と相対加速度は
v_{\mathrm{rel}}=v_A-v_B,\qquad a_{\mathrm{rel}}=a_A-a_B
である。追いつく条件は x_{\mathrm{rel}}=0、最も接近する条件は v_{\mathrm{rel}}=0 で判断できる。同じ加速度で動く 2 物体なら a_{\mathrm{rel}}=0 となり、相対運動は等速運動になる。
どこまで成り立つか
- 三公式は a=\text{const} のときに限って成立する
- 空気抵抗が無視できないときは、加速度は一定でなくなる
- ここで扱っているのは 1 次元運動であり、平面運動では各成分を独立に扱う必要がある
よくある誤り
- g の符号を問題ごとに暗記し、軸設定と切り離してしまう
- 速度と速さを混同する
- v^2-v_0^2=2a(x-x_0) を、時間を求める問題に無理に使う
- 原点や正方向を途中で変えて式全体を壊す
まとめ
等加速度運動の三公式は、加速度から速度、速度から位置へ進む積分の結果である。落下問題では、軸を先に決め、その符号規約のもとで三段セット
a_x,\quad v_x,\quad r_x
を崩さずに使うことが最も重要である。
軸の向きと符号を固定する
直線運動では、式を立てる前に正の向きを決める。上向きを正にすれば重力加速度は -g、下向きを正にすれば +g である。どちらを選んでもよいが、途中で変えてはいけない。
速度が負になることは、運動が不可能という意味ではない。決めた正の向きと逆に進んでいるという意味である。変位、速度、加速度の符号を同じ軸で読むと、折り返しや最高点の扱いが安定する。
文字式の単位
直線運動では、位置 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、変位 \Delta x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]、時刻 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] を使う。初期値も同じ単位で、x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] である。
等加速度運動の式
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2
では、x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v_0t\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、\frac{1}{2}at^2\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] となり、右辺の各項がすべて長さの単位をもつ。速度の式でも、v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、at\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] でそろう。
境界条件から運動を決める
等加速度運動では、公式を覚えるよりも、境界条件をどの時刻に置くかが重要である。時刻 t=0\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] で x=x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v=v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] が一定なら、
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2
と書ける。落下では a=-g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] と置くか、下向きを正にして a=g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] と置くかを最初に固定する。どちらを選んでも、位置の各項が [\mathrm{m}] でそろっていれば式の形は破綻していない。
直線運動では、公式を選ぶより先に、分かっている境界条件を整理する。時刻 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}]、位置 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] のうち、どれが初期と終状態で与えられているかを表にする。
| 分かっているもの | 使いやすい式 | 理由 |
| 時間 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] | v=v_0+at | 速度の変化を直接追える |
| 変位 (x-x_0)\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] | v^2-v_0^2=2a(x-x_0) | 時間を消せる |
| 最高点 | v=0 | 折り返しの条件になる |
| 追いつく瞬間 | x_A=x_B | 2 物体の位置が一致する |
未知数が多いときほど、式を増やすのではなく、不要な量を含まない式を選ぶ。時間を問われていないなら、時間を含まない式を使うほうが短い。
極限で結果を検算する
導いた式は、特殊な値を入れて壊れないかを確認する。たとえば
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2
で t=0\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] とすると x=x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] になり、初期条件に戻る。a=0\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] とすると等速直線運動 x=x_0+v_0t\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] になる。落下の式なら g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] を 0 に近づけたとき、重力なしの運動に戻るはずである。
直線運動の式を使ったあと、極端な場合にして答えが自然かを確認するとよい。たとえば加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] を 0\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] にすると、等加速度運動の式は等速運動に戻る。
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2 \quad \Rightarrow \quad x=x_0+v_0t \quad (a=0)
また、時間 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] を 0\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] にすると、x=x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v=v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] にならなければならない。初期条件を入れたときに最初の状態へ戻らない式は、符号か原点の置き方を間違えている可能性が高い。
落下運動の答えの読み方
鉛直方向の運動では、答えの符号が向きを表す。上向きを正にしたなら、速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] が負であることは、物体が下向きに動いていることを意味する。速さは |v|\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] であり、速度とは区別する。
最高点では v=0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] だが、加速度は 0 ではない。重力が働いている限り、加速度は下向きに g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] である。この点を混同すると、折り返しの運動を誤って静止と読んでしまう。
主要文字式の単位確認
位置 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、初期位置 x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、変位 \Delta x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] は、すべて長さの単位をもつ。時刻 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}]、時間差 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] は時間である。速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、初速度 v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]、重力加速度 g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] を区別する。
等加速度運動の x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2 では、x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v_0t\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、\frac{1}{2}at^2\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] で単位がそろう。v=v_0+at では、v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] と at\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] が同じ単位である。
数式内での単位明示
等加速度運動の基本式は
x = x_0 + v_0t + \frac{1}{2}at^2
である。各項の単位は、すべて長さでそろう。
未知数表を作る
直線運動の問題では、式を書く前に x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]、t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] の表を作るとよい。初期と終状態を分けて、分かっている値と未知の値を入れる。
たとえば投げ上げでは、最高点で v=0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] という条件が入る。地面に戻る瞬間なら、位置 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が初期位置と同じになる。条件を言葉のまま残さず、表の中へ単位つきの量として入れる。
未知数表を作ると、時間を含む式を使うべきか、時間を消した式を使うべきかが見えやすい。求めたい量が v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] で、時間 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] が不要なら、時間を含まない関係式を選ぶほうが計算は短くなる。