6証明補足:商環の演算が代表元によらない理由
I を環 R のイデアル とする。剰余類の和と積を
(a+I)+(b+I)=(a+b)+I,
\qquad
(a+I)(b+I)=ab+I
で定義する。この定義が代表元に依存しないことを証明する。
a+I=a'+I、b+I=b'+I とする。これは a'-a\in I、b'-b\in I という意味である。和については
(a'+b')-(a+b)=(a'-a)+(b'-b)\in I
なので (a'+b')+I=(a+b)+I である。
積については
a'b'-ab=a'b'-a'b+a'b-ab=a'(b'-b)+(a'-a)b
である。b'-b\in I であり、I は環の要素を掛けても I の中に残るので a'(b'-b)\in I である。同じく (a'-a)b\in I である。したがって a'b'-ab\in I であり、a'b'+I=ab+I である。
この証明から、イデアルの条件は「余りの類どうしを掛けても壊れない」ための条件だと分かる。
逆に、I が加法について部分群であり、(a+I)(b+I)=ab+I が代表元によらず定まると仮定する。i\in I なら i+I=0+I なので、任意の r\in R について
(r+I)(i+I)=(r+I)(0+I),
\qquad
(i+I)(r+I)=(0+I)(r+I)
である。したがって ri+I=0+I、ir+I=0+I、すなわち ri,ir\in I である。よって積の well-definedness は左右の吸収性を強制する。加法部分群という条件と合わせると、イデアル条件は十分であるだけでなく必要でもある。
演算が well-defined だと分かったので、環の公理も確認できる。加法単位元は 0+I、a+I の加法逆元は (-a)+I、乗法単位元は 1+I である。たとえば分配法則は
(a+I)((b+I)+(c+I))=a(b+c)+I=(ab+ac)+I
= (a+I)(b+I)+(a+I)(c+I)
となる。加法の結合・交換法則、乗法の結合法則、もう一方の分配法則も、R の対応する公理を代表元に適用すれば従う。したがって、これらの演算をもつ剰余類全体 R/I は環である。I=R のときは 0+I=1+I となり、この教材で環に含めている零環を得る。