6例:4 個の元を持つ有限体
\mathbb Z/4\mathbb Z は体ではないが、4 個の元を持つ有限体は存在する。\mathbb F_2[x] で
f(x)=x^2+x+1
を考える。f(0)=1、f(1)=1+1+1=1 なので、f は \mathbb F_2 上で根を持たない。二次多項式が定数でない多項式の積に分解できるなら、一次式を因子に持ち、その根が存在する。したがって f は既約である。ここで既約とは、定数でない二つの多項式の積に分解できないことをいう。
f の多項式倍全体
(f)=\{f(x)q(x)\mid q(x)\in\mathbb F_2[x]\}
を f が生成するイデアルという。実際、0=f\cdot0 であり、fq,fr\in(f) なら
fq-fr=f(q-r)\in(f)
である。また、任意の s\in\mathbb F_2[x] に対して s(fq)=f(sq)\in(f) である。したがって (f) は差と環の元による積に閉じ、確かにイデアルである。g と h の差が (f) に属するときに同じ元とみなす商環を
\mathbb F_4=\mathbb F_2[x]/(x^2+x+1)
と定義する。この記号が表すとおり 4 元の体になることは、以下で直接確かめる。\alpha=[x] と書くと、関係式
\alpha^2+\alpha+1=0
と、標数 2 での -1=1、-\alpha=\alpha から
\alpha^2=\alpha+1
が成立する。任意の類が一次以下の多項式で表せることを、指数についての帰納法で確かめる。n=0,1 では \alpha^0=1、\alpha^1=\alpha である。n\ge2 なら、商環の中で
\alpha^n=\alpha^{n-2}\alpha^2=\alpha^{n-1}+\alpha^{n-2}
であり、右辺の二つの指数はどちらも n より小さい。したがって強い帰納法により、各単項式 x^n の類は
\alpha^n=c_0+c_1\alpha\qquad(c_0,c_1\in\mathbb F_2)
と表せる。有限個の単項式を足し合わせた任意の多項式も同じ形へ簡約できる。したがって各元は
0,\ 1,\ \alpha,\ \alpha+1
のいずれかである。これらは互いに異なる。差を取っても 0 でない一次以下の多項式になる。一方、0 でない q\in\mathbb F_2[x] について \deg(fq)=2+\deg q\ge2 なので、その差が f の倍数になることはない。したがって、この商環はちょうど 4 個の元を持つ。
初めに f の既約性を確かめた理由も、ここで分かる。もし f=gh と定数でない多項式の積に分解できれば、f は二次なので g,h はともに一次である。直前の次数の議論より [g],[h] は 0 ではないが、商環では
[g][h]=[f]=0
となり、零因子が生じて体にはならない。既約性はこの障害を排除している。ただし、ここでは「\mathbb F_2[x] を既約多項式が生成するイデアルで割った商は体になる」という一般定理を使わない。この具体例が体であることは、次にすべての 0 でない元の逆元を直接求めて確かめる。
さらに、0 でない元の逆元は
1^{-1}=1,
\qquad
\alpha^{-1}=\alpha+1,
\qquad
(\alpha+1)^{-1}=\alpha
である。実際、\alpha(\alpha+1)=\alpha^2+\alpha=1 である。よって全ての 0 でない元が逆元を持ち、この商環は確かに体である。