積分公式と計算法
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導入
この講義の核心は、積分公式を微分公式の逆向きとして導出し、被積分関数の構造から置換積分・部分積分・直接公式を選択する基準を確立することにある。
積分は面積公式の暗記ではない。不定積分は原始関数の探索であり、定積分は局所的寄与の総和である。微分積分学の基本定理により、多くの定積分は原始関数の端点差へ還元される。そのため、原始関数をどう構成するかが積分計算の中心になる。
何を処理するページか
このページでは、初等関数の積分公式、置換積分、部分積分、有理関数や逆三角関数に接続する基本形を扱う。焦点は手順の列挙ではなく、被積分関数を観察したときに次を判定することである。
- 既知の微分公式を逆向きに使用できるか。
- 内側の関数とその導関数が同時に存在するか。
- 積の微分を逆向きに使用して部分積分へ移行できるか。
- 分母の導関数が分子に現れるか。
- 初等関数では原始関数を記述できない可能性があるか。
方針
積分では、まず微分公式の逆向きで直接処理できるかを確認する。次に、連鎖律の逆向きとして置換積分を検討し、積の微分の逆向きとして部分積分を検討する。有理関数では因数分解や部分分数分解を使用し、三角関数や根号を含む形では置換を選択する。
線形性と積分定数
積分の線形性は、微分の線形性から従う。F'=f、G'=g なら、
(aF+bG)'=af+bg
である。したがって、
\int (af(x)+bg(x))\,dx
=a\int f(x)\,dx+b\int g(x)\,dx
である。ただし不定積分では積分定数を一つにまとめる。C_1+C_2 のように複数の定数を保持しても、任意定数としては一つの C に吸収される。
直接公式の導出
積分公式は、候補となる原始関数を微分して確認することで導出される。n\ne -1 なら、
\frac{d}{dx}\left(\frac{x^{n+1}}{n+1}\right)=x^n
であるため、
\int x^n\,dx=\frac{x^{n+1}}{n+1}+C
である。n=-1 の場合は分母が 0 になるため、この公式は適用できない。かわりに
\frac{d}{dx}\ln|x|=\frac{1}{x}\qquad (x\ne0)
から
\int \frac{1}{x}\,dx=\ln|x|+C
を得る。絶対値が必要なのは、1/x が正の範囲と負の範囲の両方で定義されるためである。
指数関数では、
\frac{d}{dx}e^x=e^x,\qquad
\frac{d}{dx}a^x=a^x\ln a
より、
\int e^x\,dx=e^x+C,\qquad
\int a^x\,dx=\frac{a^x}{\ln a}+C
を得る。a^x の公式では a>0 かつ a\ne1 が必要である。
三角関数では、
\frac{d}{dx}(-\cos x)=\sin x,\qquad
\frac{d}{dx}\sin x=\cos x
から、
\int \sin x\,dx=-\cos x+C,\qquad
\int \cos x\,dx=\sin x+C
となる。また
\frac{d}{dx}\tan x=\sec^2x
だから、
\int \sec^2x\,dx=\tan x+C
である。
置換積分の導出
置換積分は連鎖律の逆向きである。F'=f とし、u=g(x) とおくと、
\frac{d}{dx}F(g(x))=f(g(x))g'(x)
である。したがって、
\int f(g(x))g'(x)\,dx=F(g(x))+C
となる。被積分関数の中に「内側の関数」と「その導関数」が同時に存在するとき、置換が自然である。
例として、
\int 2x e^{x^2}\,dx
を検討する。u=x^2 とすると du=2x\,dx である。したがって、
\int 2x e^{x^2}\,dx=\int e^u\,du=e^u+C=e^{x^2}+C
である。定積分では上下限も変換する。たとえば
\int_0^1 2x e^{x^2}\,dx
=\int_0^1 e^u\,du
=e-1
となる。x=0 で u=0、x=1 で u=1 になるためである。
部分積分の導出
部分積分は積の微分の逆向きである。
(fg)'=f'g+fg'
の両辺を積分すると、
fg=\int f'g\,dx+\int fg'\,dx
である。したがって、
\int f(x)g'(x)\,dx=f(x)g(x)-\int f'(x)g(x)\,dx
を得る。部分積分は、積の一方を微分すると簡単になり、他方を積分しても複雑になりすぎない場合に有効である。
例として、
\int x e^x\,dx
を処理する。f=x、g'=e^x と選択すれば、f'=1、g=e^x である。したがって、
\int x e^x\,dx
=xe^x-\int e^x\,dx
=xe^x-e^x+C
となる。対照例として \int x^2 e^x\,dx では、部分積分を一回で終了できない。多項式を微分で次数を下げるため、反復が必要になる。
対数型と逆三角型
分母の導関数が分子に比例して存在する場合は、対数型を疑う。g(x)\ne0 で g' が現れるなら、
\int \frac{g'(x)}{g(x)}\,dx=\ln|g(x)|+C
である。例として、
\int \frac{2x}{x^2+1}\,dx=\ln(x^2+1)+C
である。
逆三角型は逆関数の微分から導出される。
\frac{d}{dx}\arctan x=\frac{1}{1+x^2},\qquad
\frac{d}{dx}\arcsin x=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}
より、
\int \frac{1}{1+x^2}\,dx=\arctan x+C
\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx=\arcsin x+C
を得る。
有理関数の入口
有理関数とは多項式の商である。分子の次数が分母の次数以上なら、まず多項式除法で整式部分と真分数部分へ分解する。分母が因数分解できる場合は、部分分数分解が有効である。
たとえば、
\frac{1}{x^2-1}
=\frac{1}{(x-1)(x+1)}
=\frac{1}{2}\frac{1}{x-1}-\frac{1}{2}\frac{1}{x+1}
である。したがって、
\int\frac{1}{x^2-1}\,dx
=\frac12\ln|x-1|-\frac12\ln|x+1|+C
を得る。この方法は有理関数に特化した代数的分解であり、すべての関数に適用できるわけではない。
判定基準
| 被積分関数の構造 | 選択する方針 | 根拠 |
| 基本関数そのもの | 直接公式 | 微分公式の逆向き |
| f(g(x))g'(x) | 置換積分 | 連鎖律の逆向き |
| 異種の関数の積 | 部分積分 | 積の微分の逆向き |
| g'(x)/g(x) | 対数型 | (\ln\lvert g\rvert)'=g'/g |
| 有理関数 | 除法・部分分数分解 | 代数的分解 |
| 根号・三角形 | 置換または三角置換 | 定義域と恒等式 |
典型の誤用
第一に、\int f(g(x))\,dx を機械的に F(g(x)) としてはならない。連鎖律の逆向きには g'(x) が必要である。
第二に、部分積分でどちらを微分し、どちらを積分するかを無作為に選択してはならない。微分で簡単になる因子を優先する。
第三に、原始関数が常に初等関数で記述できると仮定してはならない。たとえば
\int e^{-x^2}\,dx
は初等関数では原始関数を記述できない。この事実は積分が失敗したことではなく、関数の表現体系に限界があることを意味する。
どこまで成立するか
このページの公式は、連続な範囲、分母が 0 でない範囲、置換が有効な範囲を前提とする。広義積分では、原始関数が存在しても定積分が収束するとは限らない。
積分の計算は、微分方程式では変数分離や積分因子に接続し、多変数微積分では重積分や変数変換へ拡張される。ただし、このページでは一変数の公式導出と計算方針に限定する。