微分積分学の基本定理
導入
この講義の核心は、定積分を累積関数として設定すると、その導関数が元の関数を回復する、という構造である。
微分は局所的な変化率を取得する操作であり、積分は小さな寄与を累積する操作である。基本定理は、この二つが偶然に似た記号を持つという主張ではない。累積した量の瞬間変化率を取得すると、各点で加えていた密度が再現されるという定理である。
用語と定義
導関数 は、関数の一点近傍における変化率を表す量である。
定積分 は、区間 [a,b] での累積量を数として表す操作である。
原始関数 は、G'(x)=f(x) を満たす関数 G である。原始関数は一意ではなく、定数を加算しても同じ導関数を持つ。
なぜこの方針を選択するか
微分と積分の関係を確認するには、まず上端を変数にした累積関数
F(x)=\int_a^x f(t)\,dt
を構成する。この形を採用する理由は、x を少し変化させたときに増加する累積量が、短い区間 [x,x+h] における積分だけに集中するからである。
第二の主張では、原始関数 G が既知である場合に、定積分を G(b)-G(a) で計算できることを示す。鍵は、同じ導関数を持つ関数どうしは定数差しか持たない、という事実である。
直感的な説明
F(x)=\int_a^x f(t)\,dt は、a から x まで蓄積した量である。x を x+h へ移動させると、新たに増加する部分は x から x+h までの細い区間だけである。幅が h で、高さがほぼ f(x) なら、増加分はおよそ f(x)h である。したがって、増加分を h で割ると f(x) が現れる。
この直感を差商で厳密化したものが基本定理の第一部である。第二部は、累積関数を毎回定義しなくても、原始関数が取得できれば端点差で定積分を計算できるという実用形である。
厳密な説明
第一部:累積関数の微分
f を連続関数とし、
F(x)=\int_a^x f(t)\,dt
と定義する。このとき、
F(x+h)-F(x)
=\int_a^{x+h} f(t)\,dt-\int_a^x f(t)\,dt
=\int_x^{x+h} f(t)\,dt
である。共通部分が消去され、新たに追加された区間だけが残る。したがって差商は
\frac{F(x+h)-F(x)}{h}
=\frac{1}{h}\int_x^{x+h} f(t)\,dt
となる。右辺は区間 [x,x+h] における f の平均値である。f が連続なら、h\to 0 の極限でこの平均値は f(x) へ収束する。よって
F'(x)=f(x)
を得る。
第一部の変形:下端が変数の場合
f を連続関数とし、
K(x)=\int_x^b f(t)\,dt
と定義する。この場合は、上端ではなく下端が移動する。x を x+h へ変化させると、
K(x+h)-K(x)
=\int_{x+h}^b f(t)\,dt-\int_x^b f(t)\,dt
=-\int_x^{x+h}f(t)\,dt
である。したがって、
\frac{K(x+h)-K(x)}{h}
=-\frac{1}{h}\int_x^{x+h}f(t)\,dt
となり、h\to0 で
K'(x)=-f(x)
を得る。上端が変数なら正符号、下端が変数なら負符号になるのは、累積区間が増えるか減るかの違いによる。
第二部:原始関数による定積分の計算
G'(x)=f(x) を満たす原始関数 G が存在するとする。第一部により、
H(x)=\int_a^x f(t)\,dt
は H'(x)=f(x) を満たす。一方、G'(x)=f(x) なので
(H-G)'=H'-G'=0
である。したがって H-G は定数関数である。H(a)=0 だから、
H(x)=G(x)-G(a)
となる。x=b を代入すると
\int_a^b f(x)\,dx=G(b)-G(a)
を得る。
第二部の帰結:総変化量の形
f が微分可能で f' が連続なら、第二部を f' に適用して
\int_a^b f'(x)\,dx=f(b)-f(a)
を得る。これは総変化量の公式である。導関数を積分すると、途中の詳細ではなく始点と終点の差だけが残る。
具体例
f(t)=t^2 とする。累積関数は
F(x)=\int_0^x t^2\,dt=\frac{x^3}{3}
である。これを微分すると
F'(x)=x^2=f(x)
となる。累積してから微分すると、元の密度関数が回復される。
同じ f に対して、定積分
\int_1^3 x^2\,dx
を計算するなら、原始関数 G(x)=x^3/3 を用いて
G(3)-G(1)=\frac{27}{3}-\frac{1}{3}=\frac{26}{3}
を得る。
下端が変数の例として、
K(x)=\int_x^2 e^t\,dt
を定義する。このとき第一部の変形により
K'(x)=-e^x
である。また総変化量の例として、
\int_1^3 (3x^2-2)\,dx
を検討すると、f(x)=x^3-2x の導関数が f'(x)=3x^2-2 だから
\int_1^3 (3x^2-2)\,dx=f(3)-f(1)=(27-6)-(1-2)=22
となる。被積分関数が導関数の形で与えられる場合、原始関数を新規に探索するより、総変化量として解釈したほうが構造が明瞭になる。
別の観点
解析的には、基本定理は差商の極限と積分平均の関係である。幾何的には、面積の増加率がその地点の高さに一致するという主張である。計算的には、定積分を原始関数の端点差へ変換する手段である。
この三つの観点を区別すると、基本定理は公式ではなく、局所変化と大域累積を接続する構造として理解できる。
判定基準
- 上端が変数の定積分が登場したら、第一部により微分を実行する。
- 下端が変数の定積分が登場したら、負符号が付くことを確認する。
- 定積分の値を計算したい場合は、原始関数を取得し、第二部により端点差を計算する。
- 被積分関数が導関数の形なら、総変化量 \int_a^b f'(x)\,dx=f(b)-f(a) として解釈する。
どこまで成り立つか
第一部をこの形で使用するには、少なくとも f の連続性を仮定するのが標準的である。不連続な関数でも発展的な定理は存在するが、この講義の範囲では連続関数を対象とする。
第二部では、原始関数が取得できることが計算上の前提である。すべての定積分が初等関数の原始関数で計算できるわけではない。その場合は数値積分、近似、特殊関数を検討する。
最終形
\boxed{
F(x)=\int_a^x f(t)\,dt
\quad\Longrightarrow\quad
F'(x)=f(x)
}
\boxed{
G'(x)=f(x)
\quad\Longrightarrow\quad
\int_a^b f(x)\,dx=G(b)-G(a)
}
\boxed{
\frac{d}{dx}\int_x^b f(t)\,dt=-f(x),
\qquad
\int_a^b f'(x)\,dx=f(b)-f(a)
}