Heaviside 演算子法と変換
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2なぜ D を記号として扱うのか
定数係数線型微分方程式
ay''+by'+cy=f(t)
は
(aD^2+bD+cI)y=f(t)
と書ける。P(D)=aD^2+bD+cI と置けば
P(D)y=f
である。
この形にする理由は、微分を何回も展開するのではなく、「未知関数 y に作用する 1 つの線型作用素」として見たいからである。すると一般論により、同次解は \ker P(D)、特殊解は P(D)y=f を満たす 1 本の解として整理できる。
3形式的な逆作用素
Heaviside 演算子法では、形式的に
y=\frac{1}{P(D)}f
のように書くことがある。これは「P(D) の逆作用素を f に作用させる」という意味であり、普通の数の割り算ではない。
注意すべき点は、P(D) が核を持つ場合、逆作用素は全体では一意に定義できないことである。したがって、この記法は特殊解を 1 つ作る道具として読むのが安全である。一般解は、その後に \ker P(D) を足して得る。
4命題:指数入力では P(D) が P(\lambda) になる
4.1主張
P を多項式とする。このとき
P(D)e^{\lambda t}=P(\lambda)e^{\lambda t}
である。
4.2証明
D(e^{\lambda t})=\lambda e^{\lambda t} である。したがって帰納法により
D^k e^{\lambda t}=\lambda^k e^{\lambda t}
である。P(s)=a_0+a_1s+\cdots+a_ms^m と書けば
\begin{aligned}
P(D)e^{\lambda t}
&=(a_0I+a_1D+\cdots+a_mD^m)e^{\lambda t}\\
&=(a_0+a_1\lambda+\cdots+a_m\lambda^m)e^{\lambda t}\\
&=P(\lambda)e^{\lambda t}
\end{aligned}\begin{aligned}
P(D)e^{\lambda t}
&=(a_0I+a_1D+\cdots+a_mD^m)e^{\lambda t}\\
&=(a_0+a_1\lambda+\cdots+a_m\lambda^m)e^{\lambda t}\\
&=P(\lambda)e^{\lambda t}
\end{aligned}
である。□
5特殊解の作り方
もし P(\lambda)\ne0 なら、
P(D)\left(\frac{e^{\lambda t}}{P(\lambda)}\right)
=e^{\lambda t}
である。したがって
P(D)y=e^{\lambda t}
の特殊解として
y_p=\frac{e^{\lambda t}}{P(\lambda)}
を取れる。
右辺が \cos\omega t や \sin\omega t の場合は、e^{i\omega t} を使って複素数で計算し、最後に実部や虚部を取る。
6共鳴する場合
P(\lambda)=0 の場合、e^{\lambda t} は同次方程式 P(D)y=0 の解である。したがって
\frac{e^{\lambda t}}{P(\lambda)}
という式は使えない。未定係数法で t を掛ける補正が必要になるのは、この重複を避けるためである。
言い換えると、e^{\lambda t} をそのまま特殊解候補にしても、P(\lambda)=0 なら
P(D)e^{\lambda t}=0
となり、右辺の e^{\lambda t} を作れない。これは候補が同次解空間に入っている、という意味である。
\lambda が P の m 重根なら、候補を
t^m e^{\lambda t}
の形まで広げる。この t^m は暗記する飾りではない。同次解と重複する候補から離れ、P(D) を作用させたときに右辺を作れる方向へ移るための補正である。
7Laplace 変換との関係
Heaviside 演算子法の形式計算は、Laplace 変換で正当化しやすい。初期値が 0 の場合、
\mathcal L\{Dy\}=sY(s)
に近い形になるので、
\mathcal L\{P(D)y\}=P(s)Y(s)
となる。したがって
P(D)y=f
は
P(s)Y(s)=F(s)
へ変わり、
Y(s)=\frac{F(s)}{P(s)}
と解ける。
初期値が 0 でない場合は、\mathcal L\{y'\}=sY(s)-y(0) のように初期値項が現れる。したがって、Heaviside 演算子法だけで初期値を無視してよいわけではない。Laplace 変換は、この初期値の扱いを明示する。
data/lecture/math/analysis/introduction-to-laplace-transform.lecture.n.md
8変換の対応表
| 変換 | 対象 | 中心作用素 | 変換後 | 向く問題 |
| Laplace transform | 連続時間 t\ge0 | 微分作用素 D | D\mapsto s と初期値項 | 初期値問題、ステップ入力、デルタ入力 |
| Fourier transform | 全時間・周波数解析 | 微分作用素 D | D\mapsto i\omega | 波、振動、PDE、畳み込み |
| Z-transform | 離散時間列 x[n] | シフト作用素 E、遅延作用素 R | 両側で E\mapsto z、R\mapsto z^{-1} | 漸化式、差分方程式、デジタルフィルタ |
Fourier 変換が効く理由は、e^{i\omega t} が微分作用素の固有関数だからである。Z 変換が効く理由は、z^{-n} の重みが添字のシフトを z や z^{-1} の掛け算へ変えるからである。
data/lecture/math/analysis/introduction-to-fourier-transform.lecture.n.md
data/lecture/math/analysis/introduction-to-z-transform.lecture.n.md
10どこまで成立するか
Heaviside 演算子法は、定数係数線型微分方程式では強力である。しかし、係数が変数に依存すると、D と乗法作用素が一般に可換でないため、多項式のように扱えない。
また、P(D)^{-1} は核があると一意ではない。境界条件や初期条件を含めると、どの逆を選ぶかが問題になる。したがって、形式計算の後には、元の微分方程式と条件へ代入して検算する。
11一言でいうと
Heaviside 演算子法は、P(D)y=f を作用素方程式として見て、形式的な逆作用素で特殊解を作る方法である。Laplace・Fourier・Z 変換は、この作用素を代数的な掛け算へ移す座標変換として働く。