6厳密な説明
6.11. 右から基本行列を掛ける
基本行列 とは、単位行列に 1 回の基本変形を施して得られる行列である。列基本変形は、右から基本行列を掛ける操作として表せる。
たとえば
C_3\leftarrow C_3-3C_1
は、
F=
\begin{pmatrix}
1&0&-3\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
を右から掛けることに対応する。実際、
\begin{aligned}
AF
&=
\begin{bmatrix}
C_1&C_2&C_3
\end{bmatrix}
\begin{pmatrix}
1&0&-3\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{bmatrix}
C_1&C_2&C_3-3C_1
\end{bmatrix}
\end{aligned}\begin{aligned}
AF
&=
\begin{bmatrix}
C_1&C_2&C_3
\end{bmatrix}
\begin{pmatrix}
1&0&-3\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{bmatrix}
C_1&C_2&C_3-3C_1
\end{bmatrix}
\end{aligned}
である。-3 が F の 1 行 3 列に現れるのは、AF の第 3 列が、F の第 3 列を係数として決まるためである。
6.22. 線型写像としての意味
A が線型写像 T_A:K^n\to K^m を表し、F が可逆な線型写像 T_F:K^n\to K^n を表すとする。このとき AF は
T_A\circ T_F
を表す。なぜなら、任意の入力 y について
(AF)y=A(Fy)=T_A(T_F(y))
だからである。
ここで F が列基本変形に対応する基本行列なら、F は可逆である。したがって T_F は入力空間 K^n を K^n 全体へ写す。結果として
\operatorname{im}(T_A\circ T_F)=\operatorname{im}T_A
であり、列空間と階数は保存される。
一方、核は同じ集合としては保存されない。AFy=0 は A(Fy)=0 を意味するので、
\ker(AF)=F^{-1}(\ker A)
である。つまり、潰れる方向の次元は保たれるが、その方向を表す座標は F によって変わる。
6.33. 行基本変形との違い
| 操作 | 掛ける側 | 何を作るか | 連立一次方程式での意味 |
| 行基本変形 | A\mapsto EA | 行の線型結合 | 方程式を同値な方程式へ変える |
| 列基本変形 | A\mapsto AF | 列の線型結合 | 未知数の係数の組を変える |
行基本変形は、方程式そのものを同値な形へ変えるため、Ax=b の解集合をそのまま保ちやすい。列基本変形は A の列、つまり未知数が掛かる係数の方向を変える。したがって連立一次方程式で列基本変形を使うなら、未知数の変換も同時に追跡する必要がある。
具体的には、F が可逆なら
AFy=b
を解いたあと、元の未知数は
x=Fy
で戻す。これを忘れると、別の未知数で解いた答えを元の問題の答えと誤解する。