差分方程式の基本
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1導入
この講義では、差分方程式が離散的な変化を数列の項の関係として記述する方程式であることを説明する。連続的な変化を記述する微分方程式との構造的対応も明確にする。
漸化式を離散時間の方程式として定式化し、微分方程式との構造的対応を説明する。ここでは a_{n+1}-a_n を離散的な変化量として解釈する。
2用語と定義
差分方程式 とは、離散的な複数の添字における未知列の値の関係を表す方程式である。高階の方程式は a_{n+2} と a_n のような非隣接項を含みうるが、この講義では隣接する 2 項の一次方程式を主に扱う。
前進差分 とは、
\Delta a_n=a_{n+1}-a_n
で定義される差である。
3方針
まず a_{n+1}-a_n を離散変化量として採用する理由を説明する。次に、一次差分方程式を変形し、等比数列と望遠和による解法を導出する。
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data/lecture/math/sequence/shift-operators-and-recurrences.lecture.n.md
data/lecture/math/calculus/introduction-to-differential-equations.lecture.n.md
4直感的な説明
微分方程式における y'(x) が連続的な局所変化率を表すのに対し、差分方程式における a_{n+1}-a_n は添字の 1 単位の増加に対応する増分を表す。
したがって、差分方程式は、時間や反復回数が整数値をとる現象の記述に適する。
5厳密な説明
5.11. 差分を使う理由
数列の変数 n は 1, 2, 3, ... という離散値をとる。したがって微分
\frac{da}{dn}
をそのまま考えるより、
\Delta a_n=a_{n+1}-a_n
によって変化量を記述することが自然である。
5.22. 最も基本の形
a_{n+1}=ra_n
の場合、
a_n=a_1r^{n-1}
である。これは等比数列である。この関係式は、添字が 1 増加するごとに直前の項を r 倍する規則を表す。したがって、
a_2=ra_1,\qquad a_3=ra_2=r^2a_1,\qquad \dots
となり、帰納的に
a_n=a_1r^{n-1}
を得る。
5.33. 一次非同次差分方程式
a_{n+1}=ra_n+b
を n\geq 1 で対象とし、初期値を a_1 とする。まず定数解 \alpha を求めると
\alpha=r\alpha+b
したがって、
\alpha=\frac{b}{1-r}\qquad (r\ne 1)
である。この定数解を、更新写像 a\mapsto ra+b によって不変な平衡点という。平衡点からの偏差を新たな列とすると、定数項 b を消去して同次方程式へ変換できる。
そこで
c_n=a_n-\alpha
とおくと
c_{n+1}=a_{n+1}-\alpha=ra_n+b-\alpha=r(a_n-\alpha)=rc_n
となる。したがって
c_n=C r^{n-1},\qquad C=c_1=a_1-\alpha
で、
a_n=\alpha+(a_1-\alpha)r^{n-1}
である。すなわち、平衡点を減算することにより、非同次方程式を同次方程式へ変換できる。
ただし r=1 のときは
a_{n+1}=a_n+b
であるから、
a_{n+1}-a_n=b
であり、各反復における増分は b である。実際、
a_2-a_1=b,\qquad a_3-a_2=b,\qquad \dots,\qquad a_n-a_{n-1}=b
を加算すると中間項が相殺され、
a_n-a_1=(n-1)b
となる。したがって、
a_n=a_1+(n-1)b
となる。したがって、r\ne 1 の公式は r=1 に適用できず、r=1 の場合には独立の導出を要する。
5.44. E-I による作用素表示
添字を 1 増加させるシフト作用素 E を
(Ea)_n=a_{n+1}
と定義する。このとき、前進差分は
\Delta a=(E-I)a
と表現される。
差分方程式
\Delta a=f
は、線型作用素方程式
(E-I)a=f
である。一般の線型作用素方程式と同様に、1 つの特解 a^{(p)} が得られれば、すべての解は
a=a^{(p)}+h,\qquad (E-I)h=0
で与えられる。ここで (E-I)h=0 は h_{n+1}=h_n を意味するため、連続する整数添字の領域上で h は定数列である。したがって、不定和分において積分定数に対応する対象は、差分作用素の核である。
data/lecture/math/linear-operator/linear-operator-equation-basics.lecture.n.md
6数学的な解釈
6.1行列による解釈
一次の差分方程式
a_{n+1}=ra_n+b
は、定数座標 1 を付加して
\begin{pmatrix}
a_{n+1}\\
1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
r & b\\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a_n\\
1
\end{pmatrix}
と表現でき、漸化式は行列反復として解釈される。
この表現では、漸化式の反復適用が行列の累乗に対応する。定数係数線型同次高階漸化式も、連続する項を状態ベクトルにまとめることにより、伴随行列による一次系へ変換できる。この場合、伴随行列の対角化可能性と Jordan 構造が解の形式を規定する。
この行列表現により、一次だけでなく二階および高階の漸化式も共通の枠組みによって整理できる。
6.2解析学的な解釈
a_{n+1}-a_n=ka_n
は
\Delta a_n=ka_n
であり、これは微分方程式
y'=ky
の離散的対応物である。連続系の解が指数関数となるのに対し、離散系の解は等比数列となる。
6.3複素関数による解釈
差分方程式に現れる r^n は、複素指数関数によって増減と振動を統一的に表現できる。r=\rho e^{i\theta} と極形式で表すと
r^n=\rho^n e^{in\theta}
である。ここで
e^{in\theta}=\cos(n\theta)+i\sin(n\theta)
である。したがって、振動を伴う増減は、単一の複素指数型によって記述できる。
この表現は倍率と回転を同時に記述する。特に二階差分方程式が共役複素根をもつ場合、実数解が三角関数によって表現される。
母関数とは、列を係数にもつ形式的または収束する冪級数である。ここでは添字を 0 から開始するように再添字付けし、A(w)=\sum_{n\ge0}a_nw^n とする。漸化式に w^n を乗じて総和を取ると、シフトは w の代数因子と初期項へ変換される。w=z^{-1} と置けば、これは片側 Z 変換の冪級数表示である。
7適用方針
- 隣接項 a_{n+1},a_n の関係を差分方程式として定式化する。
- a_{n+1}=ra_n+b では、平衡点の減算による同次化の可否を最初に検討する。
- 微分方程式との構造的対応を利用して、増加、減衰、振動を解釈する。
8成立範囲
ここでは一次の基本形だけを扱った。また a_{n+1}=ra_n+b の解法は r\ne 1 と r=1 で場合分けが必要である。高階の差分方程式や非線形の差分方程式では、別の手法が必要である。
9基本公式
\boxed{\Delta a_n=a_{n+1}-a_n}
\boxed{a_{n+1}=ra_n+b \Rightarrow a_n=\frac{b}{1-r}+\left(a_1-\frac{b}{1-r}\right)r^{n-1}\quad(n\ge1,\ r\ne 1)}
\boxed{a_{n+1}=a_n+b \Rightarrow a_n=a_1+(n-1)b\quad(n\ge1)}
10要約
- 差分方程式は、数列の変化を離散的な変化量によって記述する方程式である。
- シフト作用素による表示では \Delta=E-I であり、一般解は特解と定数列の和である。
11関連リンク
data/lecture/math/sequence/first-order-recurrences.lecture.n.md
data/lecture/math/sequence/shift-operators-and-recurrences.lecture.n.md
data/lecture/math/sequence/recurrence-types-and-strategies.lecture.n.md
data/lecture/math/analysis/introduction-to-z-transform.lecture.n.md
data/lecture/math/linear-operator/linear-operator-equation-basics.lecture.n.md