一階連立系と行列指数関数
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導入
このページの核心は、連立線型微分方程式 \boldsymbol{x}'=A\boldsymbol{x} を、行列による状態の時間発展として理解することである。
標準形
対象は
\boldsymbol{x}'=A\boldsymbol{x},\qquad \boldsymbol{x}(0)=\boldsymbol{x}_0
である。ここで A は定数行列である。
行列指数関数 は
e^{At}=I+At+\frac{(At)^2}{2!}+\frac{(At)^3}{3!}+\cdots
で定義される。この級数は正方行列に対して意味を持つ。
なぜこの方針を選ぶのか
一次元の x'=\lambda x の解は x(t)=e^{\lambda t}x(0) である。行列系では、状態の各成分が相互作用するため、数 \lambda の代わりに行列 A を用いる。したがって時間発展は e^{At} で表現される。
この方針の利点は、解を成分ごとに個別に追跡するのではなく、状態空間の 1 点が行列により連続的に移動する問題として扱える点にある。とくに固有値は増減の速さを、固有ベクトルは増減が起こる方向を表す。
厳密な説明
\boldsymbol{x}(t)=e^{At}\boldsymbol{x}_0
とおく。行列指数関数は \dfrac{d}{dt}e^{At}=Ae^{At} を満たすため、
\boldsymbol{x}'(t)=Ae^{At}\boldsymbol{x}_0=A\boldsymbol{x}(t)
となる。さらに e^{A0}=I であるため、初期条件も満たす。
対角化できる場合
A=PDP^{-1} と対角化できるなら、
e^{At}=Pe^{Dt}P^{-1}
である。D=\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n) なら e^{Dt}=\operatorname{diag}(e^{\lambda_1t},\ldots,e^{\lambda_nt}) である。固有方向ごとに独立した指数成長や減衰へ分解できる。
具体例 1:対角行列の場合
\boldsymbol{x}'=
\begin{pmatrix}
1&0\\
0&-2
\end{pmatrix}
\boldsymbol{x},\qquad
\boldsymbol{x}(0)=
\begin{pmatrix}
3\\
4
\end{pmatrix}
を考える。この場合は成分が相互作用しないため、
x_1'=x_1,\qquad x_2'=-2x_2
である。したがって
e^{At}=
\begin{pmatrix}
e^t&0\\
0&e^{-2t}
\end{pmatrix}
となり、
\boldsymbol{x}(t)=
\begin{pmatrix}
3e^t\\
4e^{-2t}
\end{pmatrix}
を得る。第一成分は指数成長し、第二成分は指数減衰する。この例は、固有値の符号が時間発展を直接支配することを示す。
具体例 2:回転を表す場合
A=
\begin{pmatrix}
0&-\omega\\
\omega&0
\end{pmatrix}
では、
e^{At}=
\begin{pmatrix}
\cos \omega t&-\sin \omega t\\
\sin \omega t&\cos \omega t
\end{pmatrix}
となる。したがって初期状態 \boldsymbol{x}_0 は、長さを保ったまま角速度 \omega で回転する。
この例では固有値が \pm i\omega であり、実部が 0 である。指数的な増減はなく、虚部が周期運動を生成する。この観点が相平面と安定性の分類へ接続する。
data/lecture/math/differential-equations/相平面と安定性-講義.n.md
二階方程式を一階連立へ還元する
y''+ay'+by=0
に対して、x_1=y,\ x_2=y' と置くと
\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix}'
=
\begin{pmatrix}
0&1\\
-b&-a
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix}
である。したがって高階線型方程式も一階連立系として統一できる。この変換により、固有値と安定性の議論が利用できる。
例として y''+3y'+2y=0 では、
A=
\begin{pmatrix}
0&1\\
-2&-3
\end{pmatrix}
となる。この行列の固有値は -1,-2 であるため、対応する二階方程式の解は e^{-t} と e^{-2t} の線型結合で表現される。これは特性方程式で得る結果と一致する。一階連立系への還元は、二階方程式の解法を線型代数の言語に翻訳する操作である。
注意
\boldsymbol{x}'=A(t)\boldsymbol{x}
のように係数行列が t に依存する場合、単純に e^{\int A(t)\,dt} と表記できるとは限らない。異なる時刻の行列が可換でない場合があるからである。この場合は基本解行列や時間順序を含む議論が必要になる。
どこまで成り立つか
このページの公式 \boldsymbol{x}(t)=e^{At}\boldsymbol{x}_0 は、A が定数行列である同次線型系に対する基本形である。非同次系
\boldsymbol{x}'=A\boldsymbol{x}+\boldsymbol{b}(t)
では、同次解だけでは不十分であり、
\boldsymbol{x}(t)=e^{At}\boldsymbol{x}_0+\int_0^t e^{A(t-s)}\boldsymbol{b}(s)\,ds
のような畳み込み型の項が現れる。また、非線型系では行列指数関数だけで全体を解決することはできない。ただし平衡点の近傍では Jacobian による線型化を通じて、このページの理論が局所解析に作用する。
data/lecture/math/differential-equations/線型化と固有値判定の入口-講義.n.md