markdown
逆行列の基本md 25d78af
lecture/math/linear-algebra/逆行列の基本-講義.n.md
Download as PDF
逆行列の基本
mathlinear-algebraundergraduatelecture
導入
この講義で最重要なのは、逆行列は公式として記憶するものではなく、「写像を復元できるか」という視点で理解するものだということである。
行列 A が入力を出力へ送るなら、逆行列 A^{-1} はその出力から元の入力を一意に復元する役割をもつ。情報が失われる場合、逆行列は存在しない。
用語と定義
逆行列 とは、正方行列 A に対して AA^{-1}=A^{-1}A=I を満たす行列である。左からも右からも単位行列になるため、両側逆であることが本質である。
単位行列 とは、掛けても何も変えない行列 I である。
方針
まず逆行列を「出力から入力を復元する写像」として解釈する。そのあと、掃き出し法で A を I に変形する過程が、そのまま A^{-1} を構成する過程になることを確認する。
直感的な説明
拡大だけなら、後で縮小すれば復元できる。回転だけなら、逆向きに回転すれば復元できる。しかし、平面を 1 本の直線へつぶす写像は、情報が失われるので復元できない。これが逆行列がない場合である。
厳密な説明
1. 定義
A を n\times n 正方行列とする。A^{-1} が存在するとき
AA^{-1}=I,\qquad A^{-1}A=I
である。長方行列では左右の行列サイズが一致しないため、この意味での逆行列は定義しない。
2. 掃き出しで求める
\left(A \mid I\right)
を構成し、左側を I へ掃き出す。すると右側が A^{-1} になる。
3. 存在しない場合
掃き出しの途中で主成分を確保できず、階数が不足するときは、逆行列は存在しない。
4. 可逆性の同値条件
A を n\times n 行列とする。このとき、次の条件は互いに同値である。
- A^{-1} が存在する。
- \operatorname{rank}(A)=n である。
- \ker(A)=\{0\} である。
- A:K^n\to K^n は単射であり、全射である。
- 任意の b\in K^n に対して、Ax=b が一意解を持つ。
- \det A\neq 0 である。
- 掃き出しで全列に主成分が存在する。
この一覧は、逆行列が単なる計算公式ではなく、情報が失われないことを表す複数の判定条件の交点であることを示す。核が \{0\} であれば 0 に潰れる非零の方向がなく、階数が n であれば出力空間を全体として到達できる。
論理の橋渡しを書くと、まず \ker(A)=\{0\} は「異なる入力が同じ出力へ潰れない」ことを意味する。したがって Ax=b の解が存在すれば、その解は一意である。有限次元の K^n\to K^n では、\ker(A)=\{0\} なら階数・退化次数定理より \operatorname{rank}(A)=n である。すると像は K^n 全体なので、任意の b\in K^n に対して Ax=b は存在する。以上から「任意の b に対して一意解を持つ」ことが従い、その解を b に対応させる写像が A^{-1} である。
5. 長方行列の片側逆
A が m\times n 行列の場合、両側逆の代わりに片側逆を考察できる。LA=I_n を満たす L は左逆であり、これは A が列満階数、すなわち \operatorname{rank}(A)=n のときに存在する。AR=I_m を満たす R は右逆であり、これは A が行満階数、すなわち \operatorname{rank}(A)=m のときに存在する。
片側逆は一意とは限らない。列が不足したり行が不足したりする場合には、最小二乗解や最小ノルム解を選択する基準が必要になる。この基準を標準的に与えるのが擬似逆行列である。
data/lecture/math/linear-algebra/擬似逆行列の基本-講義.n.md
判定基準
- 写像を復元したい、または Ax=b を一括で解きたいなら、逆行列を検討する。
- 掃き出して左側を I にできるかが、存在判定の鍵である。
- 行列式が 0 でないこと、階数が n であること、核が \{0\} であることは、同じ可逆性を別の角度から述べた条件である。
- 核、階数、任意の右辺への一意解、逆写像の存在は、情報が失われないことを別表現したものである。
最終形
\boxed{AA^{-1}=A^{-1}A=I}
\boxed{(A\mid I)\rightarrow (I\mid A^{-1})}
\boxed{A\text{ は可逆}\iff \operatorname{rank}(A)=n\iff \ker(A)=\{0\}\iff \det A\neq 0}
\boxed{\text{長方行列では片側逆と擬似逆行列を区別する}}
一言でいうと
- 逆行列は、行列が表す変換を復元できるときにだけ存在する。