逆行列の計算手順
mathlinear-algebraundergraduatelecture
導入
この講義で重要なのは、逆行列の計算は、A を単位行列へ変形する行基本変形を、右側の I にも同時に作用させる操作であるということである。
逆行列を公式だけで処理すると、なぜ掃き出しで求まるのかが不明瞭になる。左側を I へ変形する操作の合成が、まさに A^{-1} である。
用語と定義
A を正方行列とする。AA^{-1}=A^{-1}A=I を満たす行列 A^{-1} を逆行列という。
計算では拡大行列
(A\mid I)
を作り、行基本変形で
(A\mid I)\longrightarrow (I\mid A^{-1})
を目指す。
直感的な説明
行基本変形は左から可逆行列を掛ける操作に対応する。いくつかの行基本変形を合成して A が I になるなら、その合成操作を E として
EA=I
である。したがって E=A^{-1} である。右側の I に同じ操作を適用すると E が現れるため、右側に A^{-1} が得られる。
厳密な説明
A を正方行列とする。拡大行列
\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)
に行基本変形を施すことは、左から可逆行列を掛けることに対応する。行基本変形を合成した行列を E とすると、
\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)
\longmapsto
\left(\begin{array}{c|c}
EA&E
\end{array}\right)\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)
\longmapsto
\left(\begin{array}{c|c}
EA&E
\end{array}\right)
である。もし左側を単位行列にできるなら、
EA=I
である。したがって E は A の左逆行列である。正方行列では、左逆行列が存在すれば可逆であり、E=A^{-1} になる。よって
\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)
\longmapsto
\left(\begin{array}{c|c}
I&A^{-1}
\end{array}\right)\left(\begin{array}{c|c}
A&I
\end{array}\right)
\longmapsto
\left(\begin{array}{c|c}
I&A^{-1}
\end{array}\right)
が正当化される。
この議論で使っている事実は、行基本変形が左から可逆行列を掛ける操作であることと、単位行列が合成しても何も変えない基準であることである。
data/lecture/math/linear-algebra/行基本変形の基本-講義.n.md
data/lecture/math/linear-algebra/単位行列・零行列・転置の基本-講義.n.md
具体例
A=\begin{pmatrix}1&2\\3&7\end{pmatrix}
とする。拡大行列を
\left(\begin{array}{cc|cc}
1&2&1&0\\
3&7&0&1
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc|cc}
1&2&1&0\\
3&7&0&1
\end{array}\right)
とする。第二行から第一行の 3 倍を引くと
\left(\begin{array}{cc|cc}
1&2&1&0\\
0&1&-3&1
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc|cc}
1&2&1&0\\
0&1&-3&1
\end{array}\right)
である。さらに第一行から第二行の 2 倍を引くと
\left(\begin{array}{cc|cc}
1&0&7&-2\\
0&1&-3&1
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc|cc}
1&0&7&-2\\
0&1&-3&1
\end{array}\right)
となる。したがって
A^{-1}=\begin{pmatrix}7&-2\\-3&1\end{pmatrix}
である。
よくある誤解
- 逆行列は正方行列に対する両側逆である。長方行列では同じ意味の逆行列は存在しない。
- 左側だけを操作してはならない。右側の I にも同一の行基本変形を適用する。
- 途中で pivot が確保できない場合、逆行列は存在しない。
どこまで成り立つか
この手順は正方行列に対する逆行列の計算である。階数落ちの行列や長方行列では、擬似逆行列や最小二乗法を用いる。
最終形
\boxed{(A\mid I)\longrightarrow (I\mid A^{-1})}
\boxed{\text{左側を }I\text{ にできないなら }A^{-1}\text{ は存在しない}}