Schrodinger方程式の基本
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なぜSchrodinger方程式を見るのか
この講義の中心的な問いは、ハミルトニアンが、許される波動関数とエネルギーをどのように選ぶかである。
波動関数だけでは、電子のエネルギーは決まらない。分子の中で電子がどのポテンシャルエネルギーを感じるか、どの範囲で存在できるか、どの境界条件を満たすかを指定する必要がある。この条件をまとめたものがハミルトニアンである。
したがって、Schrodinger方程式は、単に時間変化を表す公式ではない。量子化学の基礎では、ハミルトニアンの固有値問題として読むことが核心である。
\hat H\psi=E\psi
この式は、線形代数の次の式と同じ構造をもつ。
A\boldsymbol v=\lambda\boldsymbol v
行列がベクトルの向きを変えずに定数倍だけ変えるとき、そのベクトルは固有ベクトルである。同様に、ハミルトニアンが波動関数の形を変えずに定数倍だけ変えるとき、その波動関数はエネルギーの定まった定常状態である。
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直感的な説明
直感的には、ハミルトニアンは「その系でどの波の形が安定に存在できるかを調べる装置」である。
弦の両端を固定すると、どんな波でも残るわけではない。端で節をもち、弦の長さに合う波だけが残る。量子化学でも同様に、電子の波動関数は、ハミルトニアンと境界条件に合うものだけが、定まったエネルギーをもつ状態として残る。
ここで「作用させても形が変わらない」という条件が重要である。ハミルトニアンを作用させた結果が元の波動関数の定数倍になれば、その定数をエネルギーとして読める。形が別の関数へ変わるなら、その波動関数はエネルギーが一つに定まった状態ではない。
時間依存形
時間を含むSchrodinger方程式は次である。
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(\vec r,t)=\hat H\Psi(\vec r,t)
ここで、換算Planck定数は次の単位と次元をもつ。
\hbar\ [\mathrm{J\,s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}]
時間は次の量である。
t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}]
したがって、左辺の係数と時間微分はエネルギーの次元を作る。
\hbar\frac{\partial}{\partial t}
\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
この式は、「状態の時間変化はハミルトニアンで決まる」と読む。ただし、量子化学の基礎でまず重要なのは、時間に依存しない場合にこの式から固有値問題が出ることである。
時間独立形が出る理由
ハミルトニアンが時間に依存しないと仮定する。このとき、時間と空間を分けた形を試す。
\Psi(\vec r,t)=\psi(\vec r)T(t)
この形を時間依存形へ代入する。
i\hbar\psi(\vec r)\frac{dT}{dt}=T(t)\hat H\psi(\vec r)
非零の分離解を考え、まず
T(t)\ne0,\qquad \psi(\vec r)\ne0
である点で両辺を分ける。零点ではこの割り算を直接行わず、得られた等式を連続性により延長して読む。
i\hbar\frac{1}{T}\frac{dT}{dt}
=
\frac{1}{\psi}\hat H\psi
左辺は時間だけの関数、右辺は空間だけの関数である。これらがすべての時間と空間で等しいなら、それらは同じ定数でなければならない。その定数をエネルギーとして次で表す。
E\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
すると、空間部分は次を満たす。
\hat H\psi(\vec r)=E\psi(\vec r)
これが時間に依存しないSchrodinger方程式であり、ハミルトニアンの固有値問題である。
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Hamiltonian の形
一粒子、質量を次の量とし、時間に依存しないポテンシャルエネルギーを考える。
m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}],
\qquad
V(\vec r)\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
非相対論的なハミルトニアンは次である。
\hat H=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\vec r)
第一項は運動エネルギーに対応する。第二項はポテンシャルエネルギーに対応する。Laplacianは次の単位と次元をもつ。
\nabla^2\ [\mathrm{m^{-2}};\ \mathsf{L^{-2}}]
運動エネルギー項の係数とLaplacianを合わせると、エネルギーの単位と次元になる。
\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2
\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
したがって、時間独立形は次のように書ける。
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\vec r)\right)\psi(\vec r)=E\psi(\vec r)
この式の左辺は、波動関数にエネルギーの演算子を作用させたものである。右辺は、同じ波動関数にエネルギーの値を掛けたものである。両辺が同じ形になるとき、その波動関数はエネルギー固有状態である。
境界条件はどこに入るか
Schrodinger方程式だけでは、解は一つに決まらない。微分方程式には積分定数が現れるため、境界条件や規格化が必要である。
境界条件は、候補となる波動関数を削る条件である。無限に高い壁をもつ箱では、壁の位置で波動関数が消える。原子の束縛状態では、遠方で波動関数が十分小さくなり、規格化できる必要がある。
この条件により、連続的に見える候補のうち、物理的に許されるものだけが残る。結果として、エネルギーが飛び飛びになることがある。
具体例: 箱型ポテンシャルを固有値問題として読む
区間内でポテンシャルエネルギーが零、外側へ出られない一粒子を考える。長さを次の正の量とする。
L\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}],
\qquad
L>0
箱の内側では次を解く。
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2}=E\psi
この式は、二階微分したときに元の関数の負の定数倍になる関数を探す問題である。したがって、候補として正弦と余弦が現れる。
\psi(x)=A\sin kx+B\cos kx
境界条件は次である。
\psi(0)=0,
\qquad
\psi(L)=0
第一の条件から、余弦の係数が消える。
B=0
第二の条件から、次を得る。
A\sin kL=0
零関数は規格化できないため、物理的な状態ではない。したがって、次を要求する。
A\ne 0,
\qquad
\sin kL=0
よって、波数は飛び飛びになる。
kL=n\pi,
\qquad
n=1,2,3,\ldots
この例で重要なのは、解法手順ではなく対応関係である。微分方程式が候補の波の形を与え、境界条件が波数を選び、ハミルトニアンの固有値としてエネルギーが得られる。
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何が変わり、何が保存されるか
時間に依存しないハミルトニアンの定常状態では、時間発展により全体位相が変わる。
\Psi(\vec r,t)=\psi(\vec r)e^{-iEt/\hbar}
しかし、確率密度は保存される。
|\Psi(\vec r,t)|^2=|\psi(\vec r)|^2
ハミルトニアンを変えると、許される固有関数とエネルギー固有値が変わる。境界条件を変えても同様である。一方、固有値問題として読む構造は保存される。
見分け方
式が次の形なら、エネルギーの定まった状態を求める固有値問題である。
\hat H\psi=E\psi
式が次の形なら、状態の時間発展を求める問題である。
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi=\hat H\Psi
微分方程式の一般解に任意定数が残るなら、境界条件と規格化をまだ使っていないと判断する。
一言でいうと
Schrodinger方程式は、ハミルトニアンが波動関数へ作用する規則である。時間に依存しない場合、その核心はハミルトニアンの固有値問題であり、境界条件と規格化が物理的に許される状態を選ぶ。