1. 異なる固有値の固有ベクトルは直交する
A を実対称行列とし、Au=\lambda u、Av=\mu v、\lambda\ne\mu とする。内積の対称性から
\langle Au,v\rangle=\langle u,Av\rangle
である。左辺と右辺を固有値で表現すると
\lambda\langle u,v\rangle=\mu\langle u,v\rangle
である。したがって
(\lambda-\mu)\langle u,v\rangle=0
であり、\lambda\ne\mu であるため \langle u,v\rangle=0 である。よって u と v は直交する。
複素のエルミート行列でも同じ議論が成立する。A^*=A は自己随伴性であり、内積の中で A を左右に移動しても
\langle Au,v\rangle=\langle u,Av\rangle
が成立する。したがって固有値が異なれば固有ベクトルは直交する。また Au=\lambda u のとき
\lambda\langle u,u\rangle=\langle Au,u\rangle=\langle u,Au\rangle=\overline{\lambda}\langle u,u\rangle
である。u\ne0 なら \langle u,u\rangle>0 なので、\lambda=\overline{\lambda} となり、固有値は実数である。
2. 実対称行列のスペクトル定理
有限次元の実内積空間で、実対称行列 A について次が成立する。
\boxed{A=QDQ^T}
ここで Q は直交行列、D は実固有値を並べた対角行列である。Q の列は A の正規直交固有ベクトルである。
複素の場合は、エルミート行列 A について
\boxed{A=UDU^*}
が成立する。ここで U はユニタリ行列であり、D の対角成分は実数である。
3. 正規行列との関係
複素の有限次元内積空間では、正規行列はユニタリに対角化できる。すなわち
A^*A=AA^*\quad\Longleftrightarrow\quad A=UDU^*
である。エルミート行列は正規行列のうち、固有値が実数になる特別な場合である。実対称行列は、その実数版として位置づけられる。
この整理により、一般の対角化可能行列、正規行列、エルミート行列、実対称行列の差異が明確になる。直交またはユニタリな基底で対角化できることは、内積構造と両立することを意味する。