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溶解度積の基本
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導入
この講義で最重要なのは、沈殿は「よく溶けない塩の溶解平衡が破れる」ときに起こる」と見ることです。
溶解度積を暗記で覚えると、「なぜ混ぜたとたんに沈殿するのか」「どこまで溶けていられるのか」が見えません。ここでは、まず溶ける・析出するを平衡として書き、その平衡を表す定数として溶解度積を導入します。
用語と定義
溶解度積 とは、難溶性塩の溶解平衡に対して定義される平衡定数です。
イオン積 とは、その瞬間のイオン濃度を掛け合わせた値です。
方針
まず難溶性塩の溶解を可逆反応として書きます。そのあと、平衡にあるときの濃度の積を K_{\mathrm{sp}} として定義し、実際のイオン濃度から作るイオン積 Q と比較して沈殿の有無を判断します。
直感的な説明
難溶性塩は「まったく溶けない」わけではなく、少しは溶けてイオンになります。ただし、そのイオンが増えすぎると、こんどは逆に固体へ戻る向きが強くなります。このつり合いの限界を表しているのが溶解度積です。
厳密な説明
1. 溶解平衡
平衡定数の一般形や、「平衡は反応が止まったことではない」という点がまだ曖昧なら、ここで化学平衡へ戻るのが自然です。
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例として \mathrm{AgCl} を考えると、
\mathrm{AgCl(s) \rightleftharpoons Ag^+(aq) + Cl^-(aq)}
です。固体の活量は一定として吸収するので、平衡定数は
K_{\mathrm{sp}}=[\mathrm{Ag^+}][\mathrm{Cl^-}]
となります。
2. なぜ積の形になるか
平衡定数は、もともと反応式の生成物の濃度を係数つきで掛けたものを、反応物の濃度で割った形です。ここでは固体 \mathrm{AgCl} の部分が定数に吸収されるので、溶液中のイオンだけが残ります。
3. イオン積との比較
実際の溶液で
Q=[\mathrm{Ag^+}][\mathrm{Cl^-}]
を作ると、
Q<K_{\mathrm{sp}}
ならまだ溶ける余地があり、
Q=K_{\mathrm{sp}}
なら飽和、
Q>K_{\mathrm{sp}}
ならイオンが多すぎるので沈殿が生じます。
4. 溶解度との関係
1 : 1 型の塩 \mathrm{AB} が 1 L あたり s mol 溶けるなら
[\mathrm{A^+}]=s,\qquad [\mathrm{B^-}]=s
だから
K_{\mathrm{sp}}=s^2
です。したがって
s=\sqrt{K_{\mathrm{sp}}}
となります。
見分け方
- 難溶性塩、沈殿、混合、飽和が出たら、まず溶解度積を疑います。
- いきなり暗記した条件を使うのではなく、先に溶解平衡の反応式を書きます。
- 沈殿の判定では、K_{\mathrm{sp}} そのものより、まず実際のイオン積 Q を作って比較します。
最終形
\boxed{K_{\mathrm{sp}}=\text{[難溶性塩/なんようせいえん]の[溶解/ようかい][平衡/へいこう]に[対/たい]する[平衡定数/へいこうていすう]}}
\boxed{Q<K_{\mathrm{sp}}:\text{ [不飽和/ふほうわ]},\quad Q=K_{\mathrm{sp}}:\text{ [飽和/ほうわ]},\quad Q>K_{\mathrm{sp}}:\text{ [沈殿/ちんでん]}}
一言でいうと
- 溶解度積は、「どこまでならイオンとして溶けていられるか」を平衡で表した量です。