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体の基本
lecture/math/abstract-algebra/体の基本-講義.n.md
体の基本
mathabstract-algebraundergraduatelecture
導入
この講義で最重要なのは、体とは「0 以外では割り算ができる環」であり、そのおかげで方程式や線形代数が非常に扱いやすくなることです。
整数では 2x=1 を整数の中で解けません。しかし有理数や実数では x=1/2 と解けます。この「割り算ができること」の差を構造として表したものが体です。
用語と定義
体 とは、単位元を持つ可換環 F であって、0 でないすべての元が逆元を持つものです。
つまり a\neq 0 なら
aa^{-1}=1
となる a^{-1} が存在します。
直感的な説明
体では、0 でない数を「縮尺」のように自由に掛けたり戻したりできます。だから一次方程式や行列の計算が安定します。
厳密な説明
1. なぜ体が必要か
環だけでは掛け算の逆元があるとは限りません。すると
ax=b
を解きたくても、a^{-1} を掛けて
x=a^{-1}b
とする操作ができません。
したがって線形方程式や多項式を系統的に扱うには、0 以外の元に逆元がある世界が欲しくなります。
2. 典型例
\mathbb{Q},\ \mathbb{R},\ \mathbb{C}
は体です。0 でない数なら逆数があるからです。
一方で \mathbb{Z} は体ではありません。2 の逆元が整数の中にないからです。
3. mod 演算で体になるのはいつか
data/lecture/math/abstract-algebra/合同式とmod演算の基本-講義.n.md
\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が体になるのは、n が素数のときです。
まず n=p を素数とします。[a]\neq [0] なら p\nmid a です。素数の性質から
\gcd(a,p)=1
なので、ax+py=1 を満たす整数 x,y が存在します。これを mod p で見ると
ax\equiv 1\pmod p
だから [a] は逆元 [x] を持ちます。
逆に n が合成数で、n=ab と分解できるなら
[a][b]=[0]
で、[a] も [b] も [0] ではありません。すると零因子があり、0 でないすべての元が可逆という条件を満たせません。したがって \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} は体ではありません。
4. 体の上で線形代数が動く理由
連立一次方程式で掃き出し法を使うとき、主成分を 1 にするために割り算をします。これは係数が体の中にあるから正当化できます。
つまり体は、代数や線形代数を滑らかに進めるための基盤です。
別の見方
方程式の見方
割り算ができるから方程式が解きやすい世界として見る見方です。
構造的な見方
環のうち、0 以外で割り算ができるものを抜き出した構造として見る見方です。
有限体の見方
\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} のように、元の数が有限でも体になれると見る見方です。ここから符号理論や暗号へもつながります。
見分け方
- 割り算を構造的に正当化したいときは、体を考えます。
- \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が体かどうかを見るときは、まず n が素数かどうかを確かめます。
どこまで成り立つか
ここでは \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} を例にしましたが、有限体はそれだけではありません。ただし初学では、まず「素数で割った mod 演算は体になる」という事実が最重要です。
最終形
\boxed{\text{体}=\text{0 以外で割り算のできる可換環}}
\boxed{\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\ \text{は }p\text{ が素数なら体}}
一言でいうと
- 体とは、環のうち 0 以外で割り算ができるようにした世界で、方程式や線形代数の基盤になります。