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環の基本
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環の基本
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導入
この講義で最重要なのは、環とは「足し算では群になり、掛け算は閉じていて、その 2 つが分配法則で結ばれている構造」だということです。
整数では足し算も掛け算もできます。しかし割り算はいつでもできるわけではありません。この「足し算と掛け算はあるが、割り算までは保証しない」世界を抽象化したものが環です。
用語と定義
環 とは、集合 R に足し算 + と掛け算 \cdot が定義されていて、つぎを満たすものです。
- (R,+) が可換群
- 掛け算が閉じていて結合する
- 分配法則が成り立つ
ここでは単位元 1 を持つ環を主に考えます。
直感的な説明
群は 1 種類の演算を抽象化しました。しかし整数では、足し算と掛け算が一緒に現れます。しかも
a(b+c)=ab+ac
のように、掛け算は足し算と相互作用します。環はこの 2 種類の演算を同時に扱うための最小限の枠組みです。
厳密な説明
1. なぜ足し算は群で、掛け算はそうでないのか
整数では、a+b はいつでも整数で、0 が単位元、-a が逆元です。したがって足し算については群になります。
一方で掛け算では、1 は単位元ですが、たとえば 2 の逆元 1/2 は整数ではありません。だから掛け算については群にしません。この非対称性が環の特徴です。
2. 分配法則がなぜ重要か
足し算と掛け算が別々にあるだけでは、整数の計算らしさは出ません。
a(b+c)=ab+ac,\qquad (a+b)c=ac+bc
があることで、展開や因数分解、合同式での演算が意味を持ちます。
3. 整数 \mathbb{Z} は環
\mathbb{Z} は足し算について可換群で、掛け算も閉じていて結合し、分配法則も成り立つので環です。
4. \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} も環
data/lecture/math/abstract-algebra/合同式とmod演算の基本-講義.n.md
剰余類の上で
[a]+[b]=[a+b],\qquad [a][b]=[ab]
と定めると、これは代表元の選び方によらず定義できました。したがって \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} も環です。
ここで重要なのは、mod 演算は「余りの計算」であるだけでなく、「環の上の演算」でもあることです。
5. 環の中で割り算はいつできるか
環では掛け算の逆元は一般にはありません。a に逆元 a^{-1} があるとき、その a を可逆元と呼びます。
たとえば \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} では、[a] が可逆元であるのは
\gcd(a,n)=1
のときです。ここに整数の最大公約数が再び現れます。
別の見方
高校数学に近い見方
整数や mod 演算の計算規則を整理する見方です。
代数的な見方
足し算と掛け算の相互作用だけを抜き出して見る見方です。
構造的な見方
\mathbb{Z} と \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が別の対象ではなく、「同じ型の構造」として比較できると見る見方です。
見分け方
- 足し算と掛け算の両方を同時に使うときは、環の見方が自然です。
- mod 演算で割り算をしたいときは、その元が可逆かどうかを先に確かめます。
どこまで成り立つか
ここでは可換環を主に意識していますが、行列の環のように掛け算が可換でない環もあります。また、すべての非零元が可逆になると、さらに体へ進みます。
最終形
\boxed{\text{環}=\text{足し算の可換群}+\text{掛け算}+\text{分配法則}}
\boxed{\mathbb{Z},\ \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\ \text{は環}}
一言でいうと
- 環とは、足し算と掛け算がどう一緒に働くかを記述する最小限の構造です。