用語と定義
運動量保存則(衝突における適用)
外力の力積が無視できるとき、系の全運動量は衝突前後で一定に保たれる。
なぜ「外力の力積が小さい」が条件か:衝突時間 \Delta t は極めて短い。外力(重力など)は有限の大きさなので、力積 F_{\text{外}}\Delta t は無視できる程度に小さくなる。これが衝突で運動量保存則が使える理由である。
導出先参照:
data/lecture/physics/mechanics/保存則の導出-講義.n.md
反発係数
反発係数(反発係数、記号 e)とは、衝突後の離れる相対速度の大きさと衝突前の近づく相対速度の大きさの比である。
e = \frac{v_2 - v_1}{u_1 - u_2} \quad (0 \le e \le 1)
命名と科学史:Newton が 1687年の Principia で導入した。当初は「衝突の硬さ」を定量化する量として扱われた。e = 1 が完全弾性衝突、e = 0 が完全非弾性衝突(合体)に対応する。
なぜ「相対速度の比」か:衝突の前後で各物体の絶対速度は異なるが、物体が「どれだけ跳ね返るか」は慣性系の選び方によらない。相対速度は座標変換に対して不変であるため、e は物理的な意味を持つ。
弾性衝突と非弾性衝突の区別
| 弾性衝突 | 非弾性衝突 | 完全非弾性衝突 |
| 反発係数 | e = 1 | 0 < e < 1 | e = 0 |
| 力学的エネルギー | 保存される | 減少(熱等に散逸) | 最大損失 |
| 運動量 | 保存 | 保存 | 保存 |
| 例 | 硬い球の衝突(理想) | 通常の衝突 | 粘土の合体 |
混同すると誤ること:e = 1 でも運動量保存則は使う。エネルギー保存だけを使うと未知数が解けない(方程式が 1 本足りない)。
厳密な説明
1. 1 次元衝突の基本式
2 物体の 1 次元衝突を考察する。衝突前の速度を u_1, u_2、衝突後を v_1, v_2 とする。
運動量保存則(常に成立):
m_1 u_1 + m_2 u_2 = m_1 v_1 + m_2 v_2 \quad \cdots (1)
反発係数の式(衝突の種類に依存):
v_2 - v_1 = e(u_1 - u_2) \quad \cdots (2)
適用条件:外力の力積が無視できること(衝突時間が十分短いこと)。
2. v_1, v_2 の解(一般式)
(1)(2) を v_1, v_2 について連立して解くと
v_1 = \frac{(m_1 - em_2)u_1 + (1+e)m_2 u_2}{m_1 + m_2}
v_2 = \frac{(m_2 - em_1)u_2 + (1+e)m_1 u_1}{m_1 + m_2}
3. 弾性衝突の別解(エネルギーを使用するルート)
e = 1 のとき、(2) の代わりに力学的エネルギー保存
\frac{1}{2}m_1 u_1^2 + \frac{1}{2}m_2 u_2^2 = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 \quad \cdots (3)
を使用してもよい。(1)(3) から解く方法と (1)(2) から解く方法は同値であり、計算量は (1)(2) の方が少ない。
各ルートの選択基準:e が与えられているならば (1)(2)、「弾性衝突」と明記されていても e = 1 を (2) に代入するのが速い。エネルギー保存の式 (3) は v_1^2, v_2^2 の形で非線形になるため、連立が煩雑になる場合がある。
4. 具体例:同質量の弾性衝突
質量 m の 2 球を考察する。球 A が速度 u で静止している球 B に正面衝突する(e = 1)。
ルート 1:(1)(2) を使用する。
mu + 0 = mv_1 + mv_2 \implies v_1 + v_2 = u \quad \cdots (1')
v_2 - v_1 = 1 \cdot (u - 0) = u \quad \cdots (2')
(1') + (2'):2v_2 = 2u \implies v_2 = u
(1') - (2'):2v_1 = 0 \implies v_1 = 0
→ A が停止し、B が速度 u で飛び出す(速度の完全交換)。
ルート 2:一般式( §2 の結果)に m_1 = m_2 = m、e = 1、u_2 = 0 を代入する。
v_1 = \frac{(m - m)u + 0}{2m} = 0, \quad v_2 = \frac{0 + 2mu}{2m} = u
同じ答えを得る。一般式の検証にもなる。
5. 具体例:完全非弾性衝突(e = 0)
同じ設定で e = 0(合体)。(2) から v_2 - v_1 = 0、すなわち v_1 = v_2 \equiv v。(1) から
mu = 2mv \implies v = \frac{u}{2}
力学的エネルギーの変化:
\Delta K = \frac{1}{2}(2m)\left(\frac{u}{2}\right)^2 - \frac{1}{2}mu^2 = \frac{mu^2}{4} - \frac{mu^2}{2} = -\frac{mu^2}{4}
元の運動エネルギーの半分が失われ(熱や変形に散逸)、運動量は保存されている。